菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(149)

掲載日時 2017年04月08日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年4月13日号

◎快楽の1冊
『「意識高い系」の研究』 古谷経衡 文春新書 830円(本体価格)

 ここ数年“意識高い系”という言葉をよく耳にする。あなたの身の回りにもこんな人はいないだろうか? スタバでPCのマックブックを広げ何やら作業をする、セミナーやパーティーに積極的に参加し、著名人との関わりや人脈を自慢、やたらと自撮り写真をSNSにアップする等々。彼らの「自己顕示欲」と「承認欲求」はとどまることを知らないが、もはやネット上では「能力が高く知識や経験が豊富な人」という当初の意味から変化し、最近では嘲笑と揶揄を表す言葉になってきた。
 著者の古谷経衡は「リア充」と「意識高い系」の違いを「土地」と「スクールカースト」をキーワードに論じている。実家が金持ちで、加えて容姿端麗、学内の人気者と、まるで嵐の櫻井翔のような人生を歩んでいる「リア充」を横目に、一方で多くのルサンチマンを抱えながら、彼らとの圧倒的な差を埋めようと必死の迷走を始める人々が生まれる、という構図だ。
 まさに一発逆転、下克上を夢見る戦国武士のような心意気だが、本当のリア充はその「リア充ぶり」を決して他人にアピールしたりしないことに本人たちは気づいていない。
 もっとも本書を読んで、自分は決してリア充になれないと、意識高い系の人々を憐れみながらも、心のどこかでシンパシーを感じる人は多いはずだ。仮に「もどき」であったとしても、自分を高める努力をしている人を簡単に切り捨ててしまえば、一縷の望みすら消え去ってしまうからだ。
 筆者は今や絶縁している地元の情報について、フェイスブックなどをチェックしつつ、10年近く検索を繰り返しているという。〜彼らの人生よりもまだ幾分、自分の方が成功しているのであるに違いないという確認をし、溜飲を下げたい心情に陥るからである〜。
 何とも身につまされる話ではないだろうか。
(小倉圭壱/書評家)

【昇天の1冊】
 「結婚は人生の墓場」といった有名な格言がある。墓場とは人生の終焉を象徴するもので、いい意味で使われる格言ではない。
 一方、墓場とは考えず、生まれ変わっても同じ人と結婚したいと願う幸せな夫婦もいるだろう。結婚の墓場とは何か? 暖かな家庭とは? 気鋭の女性作家7人が、そうした結婚生活のメリットとデメリットを描いた小説を1冊にまとめたのが『黒い結婚 白い結婚』(講談社/1500円+税)だ。
 中島京子さん執筆の『黒猫』は、マザコンの男と結婚した妻が離婚に至る経緯と心理をつづった作品。夫の母親の存在が結婚を地獄へと変えていく様子は、読んでいて恐ろしさすら感じる。
 瀧羽麻子さんの『シュークリーム』も面白い。主人公の妻は、シュークリームの中のクリームだけを食べ、皮をきれいに残す夫の癖が気に入らない。それがきっかけで、妻は夫の悪い面ばかりを見てしまうようになる。どの夫婦にもありがちな「癖」「習慣」の違いが、ほころびを生んでいく。
 人妻不倫の話も。人もうらやむエリートと打算で結婚し、優越感いっぱいのはずなのに、元カレに貢いで心の隙間を埋める女の姿を描いた窪美澄さんの『水際の金魚』だ。女の“業”と“本能”の愛欲劇である。
 他にもどこか変だが、ほんわかとハッピーな男と女がテーマの作品も掲載されており、結婚とは、「黒」「白」の両面あるものだという思いに至る。翻って自分の結婚生活は幸せなのかと、ふと考えてしまう一冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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