葉月あや 2019年5月2日号

本好きのリビドー(241)

掲載日時 2019年02月20日 15時30分 [エンタメ] / 掲載号 2019年2月28日号

快楽の1冊
『韓国・北朝鮮の悲劇―米中は全面対決へ』 藤井厳喜・古田博司 WAC 920円(本体価格)

★中国・韓国情勢を踏まえた有益な対談
 長らく韓国のインテリ層が抱えた弱みは、国是が「反共」の一点張りしか、煎じ詰めればなかったことにあるのだとか。

 実際、民主化が実現する80年代まで、韓国ではマルクスの「資本論」が禁書だったというから驚きで(本書中、古田氏の発言による)、一方、北朝鮮には建国以来、共産主義の理想に併せていわば“精神的支柱”としての主体思想がある。

 金日成が唱えたとされ、“人間は自分の運命の主人だ”と説くこの発想は(たとえ独裁者の便宜的イデオロギーにすぎないとはいえ)1000年以上も志那歴代王朝の属国にされてきた彼の国民のメンタリティーの中核には潜在的によほど訴え、響くのも無理はない気がしてくる。

 その伝でいうなら、北から見れば南は依然アメリカの軍隊に基地を置かれた状態のままであるのに対し、毅然と自主独立を保つ偉大な「わが共和国」には外国の軍人など一兵たりとも領土内に存在しない、どうだ…と誇れてしまうわけだ。この点への一種羨望の念と背中合わせのやましさがプライドとないまぜの心理になって、韓国の保革左右を問わず知識階層を悩ませてきた、というのだがさて。

 その北が90年代以降マルクス主義を放棄し(これも本書で初めて知った)主体思想一本に絞って工作を迫る以上、もはや反共の理念自体が南で意味がなくなるのは仕方ない。

 韓国の国防白書で北朝鮮を「敵」とする表記が遂に消え、やがては核兵器も南北同胞で共有しかねない方向に舵を切りつつある現文在寅政権の底意が見えてきた昨今。身にかかる火の粉を振り払う予防のつもりで、曇りない国際政治情勢分析のプロ藤井氏と東洋史の暗黒を知り尽くす古田氏の対論。必読の参考文献だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 大ヒット上映中の映画『ボヘミアン・ラブソディ』、もうご覧になっただろうか。ロックバンド“クイーン”の伝記映画である。リード・ボーカリストのフレディ・マーキュリーが45歳で亡くなるまでの波乱万丈の生涯を描き、注目の的だ。昨年11月に公開されて以来、昨今の映画としては異例の興行収入、ロングランとなっている。

 そこで、映画と併せて読みたいのが『フレディ・マーキュリー 孤独な道化』(ヤマハミュージックメディア/2800円+税)。謎に満ちたフレディの素顔やプライベートに迫ったノンフィクションだ。数年前に刊行された書籍を復刻し、大きな話題となっている。

 内容は映画とほぼ同じ。アジア系移民の子としてイギリスに移り住み、ミュージシャンとして大成功を収めたものの、バンド内の軋轢、ロックビジネスを取り巻くカネ、そして、フレディ自身がLGBTであったことによる葛藤などが、多くの関係者の証言によって明らかにされていく。

 また、フレディが死亡した原因はエイズだった。まだエイズ患者に対する偏見と差別が蔓延していた時代、彼は病気とどう向き合い、闘病したのかも、つぶさに語られている。

 何より興味深いのはクイーンの数々のヒット曲が、どう誕生したかが詳細に記述されている点。今でもスポーツ映像の感動シーンに使用される『伝説のチャンピオン』を始め、クイーンにはオヤジ世代に馴染みの楽曲が多い。懐かしさと共に、深い感動を味わえる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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