森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★同一労働同一賃金は実現するか

社会・2020/02/06 06:00 / 掲載号 2020年2月13日号

 今年4月からパートタイム・有期雇用労働法が施行され、雇用形態に関わらず同一の労働に対しては、同一の賃金の支払いが求められることになった。もし、この「同一労働同一賃金」が厳格に適用されると、日本社会に革命的な変化が訪れることになる。それはいまの日本が、とてつもない賃金差別をしているからだ。

 厚生労働省の賃金構造基本調査(2018年)によると、正社員の年収は500万円、契約社員等の非正社員が295万円、パートタイマーは120万円となっている。ただ、それぞれ労働時間が異なるので、1時間あたりの賃金を計算すると、正社員2329円、非正社員1428円、パート1169円となっている。パートの時給は正社員の半分だ。

 こんなおかしなことをやっているのは、先進国では日本だけ。欧米では職務ごとに賃金が決まっているため、そもそも同じ職務で異なる賃金が支払われることがないからだ。

 それでは、法律が施行されると、こうした格差はなくなるのか。答えは否だ。確かに法律は、賃金から、賞与、福利厚生、教育訓練に至るまで、差別を禁止することになっている。ところが、厚労省のガイドラインをみると、正社員と完全に同一すべきとされたのは、通勤手当、社員食堂、慶弔休暇などに限られている。基本給については、「能力や経験などが同じであれば」、ボーナスについては「会社の業績等への貢献度が同じであれば」という留保条件がつく。つまり、法律が禁じているのは、不合理な差別であり、職務内容に違いがあれば、賃金の違いは許されてしまうのだ。

 日本では非正社員の比率が一貫して増え続け、いまや4割に達している。企業は、低賃金の非正社員の割合を増やすことで、正社員の賃金を守ってきたのだ。本来なら、非正社員の時給を正社員の時給に合わせれば1番いいのだが、現実には企業が支払える人件費総額には、おのずと限度がある。だから短期間で同一労働同一賃金を実現しようと思ったら、正社員の給料を下げる必要が出てくる。

 しかし、厚労省の同一労働同一賃金ガイドラインをみると、「正社員の待遇を不利益に変更する場合は、原則として労使の合意が必要」と書いてある。つまり、正社員の労働組合が同意しない限り、賃下げはできないということ。
 しかも、今回の法律には、同一労働同一賃金に違反した場合の罰則規定がない。正社員の賃下げを可能にする規定もない。つまり、同一労働同一賃金という理想を掲げただけで、実効性のほとんどない法律になっているのだ。

 オランダでは、1982年に政労使の間でワッセナー合意が結ばれ、完全な同一労働同一賃金が実現した。パートタイマーの労働時間が正社員の8割だったら、年収が8割ということにしたのだ。その結果、パートタイマーが増加し、副業を行う人も劇的に増えた。そして、厳しい解雇規制を続けたにも関わらず、労働者の意思に基づく労働市場の流動化が起きた。同時に、会社というタコツボから解放された労働者の発想が広がって、オランダは、奇跡の経済復活を遂げている。

 だから、今回のパートタイム・有期雇用労働法は、完全な同一労働同一賃金への第一歩と位置付けて、さらなる改革を続けていくべきだろう。

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