鈴木ふみ奈 2018年11月1日号

本好きリビドー(206)

掲載日時 2018年06月09日 15時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年6月14日号

◎快楽の1冊
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 新井紀子 東洋経済新報社 1500円(本体価格)

 「30年後も“医学部卒”で食えるか」。急速なAIの発達進化の余波で純粋文系の徒輩からしてもなかなかショッキングな見出しが経済誌の広告で踊るのが珍しくなくなった昨今、グーグルでAI開発を陣頭指揮する未来学者が2045年に1000ドル(日本円にしておよそ11万ってとこか)のコンピューターが全人類を合わせた量より知的になる、と公言したことからいよいよ本格的な“シンギュラティ(AI=人工知能が完全に人間の知性を超える領域に達する段階)”の到来が議論されて喧しい。
 だが、数学が専門の著者によればその学者の発言の「賞味期限は長く見積もってあと2年」なのだとか。どんなに先走って騒いだところで現時点でのAIは所詮コンピューターであり、煎じ詰めれば計算機にすぎず、論理・確率・統計には無限に強くなり得るとしても、例えば“言外の意味”のような感覚を理解することはできない。将棋や碁の世界王者に勝てたとしても、優れた芸術作品を生み出せるわけではない…と説かれれば、大量かつ広汎な雇用職種がAIに奪われる暗黒の将来を想像しがちな悲観論者には若干の福音のように響くかもしれないが、ことはそう単純ではない。
 ここ近年で繰り返された調査による中高生、あるいは大学新入生の間で基礎読解力の著しい低下ぶりが、本書後半に至ってデータ付きで細かく報告されるに及んで初めてうそ寒くなってくる。このままでは文部科学省が目論む“アクティブ・ラーニング(教室内でのディベート重視だの小学生からの英語必修だの)”など起きて云う寝言。既にペーパーテスト上だけは偏差値60台の難関私大に合格できる水準に達したAIの、いかに裏をかける人間になれるかの戦いは待ったなしだ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 男性諸氏にとっては、まずタイトルが驚愕モノ。『わたし、恋人が2人います。』(WAVE出版/1500円+税)。
 女性の二股恋愛についての書籍?…と思いきや、女1人、男2人の合意の上で成立している「誠実で正直な複数恋愛」。こうした複数愛を「ポリアモリー」というそうだ。陰でこっそり男2人と交際しているワケではないということ。
 著者のきのコさんは、30代半ばのメーカー勤務のOL。同棲生活を送りながら、他に好きになった男への恋愛感情を抑えきれず、同棲相手に告白。納得の上で三角関係(この言葉もポリアモリーの観点からすると不適格なのだろうが、本誌ではあえて使わせてもらう)を進行中。そして、そうした新しいライフスタイルに共感を覚える女性は、決して少なくないという。
 週刊実話の読者であるオヤジ世代には、理解不能だ。そもそも男の立場からすれば疑問もある。例えば、男がこのような複数恋愛を公言したら、女性は納得してくれるだろうか? 「本当に2人とも好きなんだ」と吐露したところで、優柔不断野郎と非難囂々だろう。
 また、自分の彼女が別の男と交際していれば、当然、カラダの関係も持つ。そんな環境に寛容な男は、世の中にそう多くはない。
 それを許容している著者の恋人2人は、度量が広いということか…。
 何とも不思議な恋愛模様だが、ともあれ男女関係は時代と共に刻々と変わりつつあるらしい。そのことを実感できる1冊。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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