菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(217)

掲載日時 2018年09月01日 07時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年9月6日号

快楽の1冊
『日本二千六百年史 新書版』 大川周明 毎日ワンズ 1100円(本体価格)
★発禁の歴史書、「不敬罪違反」部分を復元
 数ある東京裁判の記録映像で、ドキュメント番組などで繰り返し使われる“お約束”といえばA級戦犯が居並ぶ被告席で突如、前に座った東条英機元総理の禿頭をぺシャリと叩く大川周明の姿だろう。往年の「プロ野球珍プレー好プレー」における中日・宇野選手の顔面への落球と並び、どれほど目に焼きつけられたことか。
 結局、彼は脳梅毒による精神錯乱と診断され訴追は免れたわけだが、入院先の病室でイスラム教の聖典「コーラン」の完訳を成し遂げた事実から一部で詐病、佯狂(狂気を装うこと)の疑いがささやかれた。加えて夫は性的不能者だった、と語る彼の妻の証言まで引き出されたものの、厳密に梅毒性脳炎であったのは医学的にも証明されており、「彼の発病は永遠の謎である」(山田風太郎『人間臨終図鑑』より)という…。
 余談はさておき本書はそんな著者、大川周明が“♪金鵄輝く日本の、栄ある光身にうけて”と歌われ、神武天皇即位以来「紀元二千六百年」目を迎える奉祝ムード一色だった昭和15年の直前に刊行した日本通史、その初版の復刻版である。右翼のイデオローグとして数々のクーデター未遂事件に関わり、また五・一五事件では黒幕と目され逮捕歴もある彼だが、意外にも筆致は至って冷静。
 史上の人物に対する評価も極めて公平で納得できるものばかりなのが、同じ右翼でも皇国史観の権化、平泉澄東大教授(当時の歴史学界の大権威)と決定的に違うところ。なにしろゴリゴリの平泉史学にかかると頼朝から始まる武家政権700年が、後醍醐天皇による建武の中興を除いて丸々、なかったことにされてしまうのだから恐ろしい。戦前は不敬罪に問われ、戦後はGHQが発禁にした本物の1冊だ。_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 すごい本である。タイトルからして『極姐2.0』(徳間書店/定価1600円+税)、サブタイトルが『ダンナの真珠は痛いだけ』、著者は広域三次団体元組長妻・待田芳子さん。表紙イラストの下着姿で寝転ぶ女性は著者がモデルだろうか。肩から覗く彫り物が、色っぽいやら、コワイやら…。
 そう、極妻の手記である。もっともご主人は刑務所服役中に病死しており、著者も今はその世界から離れているという。
 とはいえ、内容は生々しい。「キメセク」(危険ドラックを服用してセックスすること)から、芸能人・政治家との交友録(一部実名入り)、暴力団員と妻たちの詳細な仕事内容とそれにまつわる悲喜劇、今どきの抗争事情まで、カタギが知らない話題が次から次へと、てんこ盛りである。
 また、ヤクザと妻たちは、どのように出会うのかも興味深い。意外にも一般の仕事に就いていた女性も少なくないらしい。看護師、保険セールス、事務員が、暴力団員へ嫁いだ途端に暴対法にさらされ、クレジットカードは作れない、銀行取引は停止、子どもの学校入学も拒否されるという、波乱万丈の人生に直面する。
 さらに、ホロリとさせられたりもする。若い衆が刑務所で初めて教育を受け、「字」を覚える。覚えたてのたどたどしい文字で、「ねえさんの、つくってくれた、かれーらいすがたべたいです」と手紙を送ってくる。
 著者がいう「面白くてやがて哀しいヤクザ」のひと言が、哀感をもって伝わってくる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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