森咲智美 2018年11月22日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第207回 雇用の問題

掲載日時 2017年02月02日 10時00分 [政治] / 掲載号 2017年2月9日号

 新たにアメリカ大統領に就任したドナルド・トランプは、1月11日、当選後初の記者会見において、
 「最も多くの雇用を創り出す大統領になる」
 と、新政権における抱負を述べた。

 国民は生産者として働き、モノやサービスを生産。顧客に消費・投資として支出してもらい、所得を稼ぐ。生産者は稼いだ所得を持ち、今度は顧客側に回り、別の生産者が生産したモノやサービスに、消費・投資として支出する。すると、別の生産者に所得が生まれる。
 この所得創出のプロセスが回り続けるのが「実体経済」である。すなわち、実体経済とは「雇用」そのものと表現可能だ。

 企業が外国に直接投資を実施し、安いコストで生産を実現。その場合、企業が利益を稼いだとしても、生まれているのは「外国の雇用」である。
 あるいは、国内で生産できるものを、わざわざ外国から輸入した場合、生産者はやはり外国の労働者になる。本来、製品の需要に対し、国内で生産が行われるならば、国民の雇用になるはずなのだが、輸入ではそうはいかない。

 特に問題なのが、前々回にも取り上げたが、「対外直接投資+輸入」の組み合わせ、いわゆる「逆輸入問題」である。例えば、アメリカがメキシコから自動車を逆輸入した場合、
 「アメリカ国民の雇用が生まれない」
 「需要が奪われている(アメリカの需要に対し、メキシコの生産者が供給している)」
 と、二重の意味で国民経済(実体経済)はダメージを受けてしまう。

 無論、経済が適切なインフレ率の下で成長を続け、国内が完全雇用状態になっているならば話は別だ。完全雇用でありながら、それでも需要の方が旺盛。その場合、企業が外国に工場を建設し、製品を逆輸入することは「国民経済的」にも正当化される。とはいえ、現実は異なる。
 企業の「対外直接投資+輸入」拡大は、単に企業や株主の「利益最大化」のために行われているにすぎない。そして、なぜ企業が利益最大化を目指すのかといえば、もちろんグローバル株主資本主義が横行してしまったためである。

 グローバル株主資本主義の横行は、特に先進国の「若い世代」に負担を強いている。先進諸国では、完全失業率が低下したとしても、若年層失業率(15歳-24歳の失業率)が高止まりするという傾向が続いているのだ。
 ILO(国際労働機関)推計値による、2015年における主要国の若年層失業率は左ページの図(※本誌参照)の通りとなっている。スペイン、ギリシャの若年層失業率は50%弱、イタリアが40%強、フランスが25%、イギリス、アメリカ、中国、韓国、台湾と、軒並み2桁に達しているありさまだ。

 そんな中、若年層失業率が明らかに「突出して低い」のがわが国である。
 '16年11月の若年層失業率は、何と4.3%! どこまで下がるのかという感じであるが、とある事情からまだまだ下がるだろう。
 さらに完全失業率も、直近ではわずかに3.1%。日本の完全失業率は、リーマンショック以降、民主党政権、安倍政権と、中期的に下落傾向にある。

 なぜ、日本はデフレが継続しているにもかかわらず、雇用が改善しているのか。現在の失業率の低下は、安倍政権の経済政策、特に「金融緩和」のおかげなのだろうか。金融緩和が雇用増に結び付いたならば、円安や需要増により、製造業の就業者数が伸びていなければならないはずだ。
 安倍政権が発足した'13年1月と、直近について、主要産業(農林業除く)の就業者数を比較してみると、最も雇用増が大きかったのが「医療・福祉」の46万人。次いで「卸売業・小売業」の27万人、「情報通信業」21万人、「不動産業・物品賃貸業」同じく21万人。次がようやく「製造業」で13万人、「建設業」が4万人という結果になっている。
 日本の雇用増をけん引したのは、少子高齢化による人口構造の変化を受けた“介護需要の増加”なのである。また、「卸売業・小売業」は観光サービス活況の影響であり、「情報通信業」はスマートフォン普及によるものであろう。
 「不動産業・物品賃貸業」は、収益マンション投資の拡大だ。そういう意味で、金融緩和(による金利の低下)が影響を「与えていない」という話ではない。それにしても、リーマンショック以降の失業率の低下は、「安倍政権の金融緩和の成果」と断言するのは、これは乱暴というものだ。何しろ、肝心の製造業の伸びが小さい。

 経済「学」的には、インフレ率と失業率は負の相関関係にある。インフレ率が上昇すれば失業率が下がり、インフレ率が下落し、デフレになれば失業率が上がる。
 デフレで仕事の量が不足すれば、人が余り、失業率が上昇する「はず」なのだ。
 ところが、直近のデータを見ると、奇妙な状況になっている。'16年はGDPデフレータベースのインフレ率がマイナスに戻ってしまった。日本経済は、インフレ率を見る限り再デフレ化している。それにもかかわらず、失業率は'95年以降では最低の3.0%を記録した(直近は3.1%)。

 現在の日本は、
 「安倍政権の失政(緊縮財政)により、デフレが継続している(物価が下がっている)」
 および、
 「少子高齢化による生産年齢人口比率の低下により、雇用環境が改善している」
 との、二つの現象が同時並行的に進行していることが分かる。総人口に占める生産年齢人口の割合が下がっている以上、必然的にわが国は人手不足にならざるを得ない。すなわち、雇用環境は改善する。
 安倍政権は、現在の失業率低下を「人口構造の変化」によるものであると認識し、デフレ脱却に向けた手を緩めてはならないのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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