☆HOSHINO 2019年6月27日号

本好きのリビドー(240)

掲載日時 2019年02月13日 15時30分 [エンタメ] / 掲載号 2019年2月21日号

本好きのリビドー(240)
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◎快楽の1冊
『スタンドアップ!』五十嵐貴久 PHP研究所 1700円(本体価格)

★感涙必至のボクシング小説

 誕生以来二世紀をまたぐキャラクターながら、今日なお繰り返し映像化される名探偵といえばシャーロック・ホームズだろう。無数の亜流を産んだ日本へもその影響力は絶大だが、しかし、肝心のホームズ自体を創造した作者のほうはというと、アーサー・コナン・ドイルの名前が誰の口からも出てくる…訳には残念だが行きそうもない。

 皮肉にもドイルの本業は医師で、著述に専念してからも自分の本領は歴史文学にあると信じ、あくまで余技のつもりで書いた推理小説で名声を得たのが最後まで不本意だったとか。

 売れない無名の俳優だったS・スタローンが一躍脚光を浴び、スターとして不動の地位を築く契機となった映画『ロッキー』の場合はどうか。現在公開中の『クリード』まで続く大河サーガにまで成長した観のこの名シリーズ、もとを正せば“どん底の逆境にあえぐ人間がふとしたチャンスをきっかけに、誇りを取り戻し栄光を掴む”と、たった数行で要約できる第一作から始まったはず。その脚本をスタローンに執筆せしめたのが、ヘビー級王者のモハメド・アリとその噛ませ犬役に選ばれたチャック・ウェプナーの試合だった事実がどれだけ知られていよう。禿げ気味の頭にぷよついた体、年も36歳とすべてが瀬戸際のウェプナーが15ラウンドを闘い抜き、敗れたとはいえKOされなかった姿を見せつけなければ、永遠に人の心をとらえて離さぬ王道の物語パターンは生まれなかったかもしれない。

 本書で幼児を抱えDVに苦しむ主人公の女性は、帯文に踊る「現代版ロッキー」というよりウェプナーに近いリアルさで描かれる。敵役のチャンピオンを大関沙織嬢で映画化してほしい。胸滾るボクシング小説の傑作だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 世の亭主族は全員読んだほうがいい1冊、『妻のトリセツ』(講談社/800円+税)。何しろ「いつも不機嫌」「理由もなく怒り出す」「何年も前のことを突然蒸し返す」など、亭主なら「え? 何で?」と一度は経験のある妻の態度と、その解決策が載っているのだから、読んでおくに越したことはない。

 まず注目したいのは、どうして妻がそうした言動に走るのか、その理由は追求してはいけないと書かれている点。怒っているからといって、夫に問題の解決を求めてなどいない、というのだ。

 ただ、自分がそう感じていることを「分かってほしい」から怒り、愚痴を口にしているのだから、共感するフリをすればいいだけとある。

 また、これも妻がよくいうセリフに「勝手にすれば」「好きにすれば」というのがある。だからといって勝手にしたら、かえってやぶ蛇。この言葉には「勝手になんてしたら許さない!」という、何とも複雑な女心が潜んでいるらしい。まさに女の気持ちは言葉と裏腹なのである。

 もちろん、こうした点をすでに理解している亭主もいるだろう。

 しかし、理解したところで対処できていないのが実態だ。つまり、「放っておけばいい」というのが男の本音。

 男の立場からすると、正直、この1冊を読んでも夫婦のけんかを解決できるとは思えない。しかし、ややこしい、面倒くさい「妻」たちの心の内を多少なりとも知る一助なるのではないだろうか。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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