祥子 2019年5月30日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第319回MMT対財務省(前編)

掲載日時 2019年05月14日 06時30分 [社会] / 掲載号 2019年5月23日号

 MMT(現代貨幣理論)という黒船の到来を受け、財務省がパニックに陥ったように見える。財務省は4月17日、MMTに「反対」する資料を、自省の御用機関である財政制度等審議会に提出した。

 もっとも、新聞などでも「財務省のMMTへの反論資料」と書かれてはいるものの、実は財務省は資料においてMMTには全く反論していない。それどころか、論評もしていない。

 “反論”資料は60ページを超す分厚さであるが、MMTに関連する箇所は4ページのみだ。しかも、MMTに関する説明は半ページのみで、残りはすべて「権威(経済学者など)」の反MMTの発言で埋め尽くされていた。「権威」を利用し、自らは何も意見せず、相手をおとしめようという権威プロパガンダ(権威に訴える論証)である。

 ちなみに、財務省のMMTの解説(わずか半ページだが)が実に興味深い。財務省は、MMTについてアメリカのステファニー・ケルトン教授(ニューヨーク州立大学)などが提唱しており、同国の政治家アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員や、バーニー・サンダース上院議員などが支持していると解説し、その上で、黒田東彦日銀総裁の答弁を掲載している。

〈それらの方(※MMT派)が言っておられる基本的な考え方というのは、自国通貨建て政府債務はデフォルトしないため、財政政策は、財政赤字や債務残高などを考慮せずに、景気安定化に専念すべきだ、ということのようです(2019年3月15日黒田日銀総裁会見)〉

 MMTは、単に現代の「貨幣」について説明した純粋理論である。とはいえ、MMTは「自国通貨建ての国債のデフォルトはあり得ない」ことの正しさを証明してしまったため、政治的な色を帯びることになった。

 政治面から見たMMTの肝は、まさに黒田日銀総裁の言う「自国通貨建て政府債務はデフォルトしない」なのである。財務省は“反論”資料において、黒田発言を掲載し、そして興味深いことに「自国通貨建て政府債務はデフォルトしない」については、何のコメントもしていない。

 何しろ、「自国通貨建て政府債務はデフォルトしない」は単なる事実である。下手に反論すると、財務省は「うそつき」であることを自ら証明することになってしまう。だからこそ、財務省はMMTには一切コメントせず、ひたすら反MMT派の論客の発言を列挙するしかなかったのだ。

 財務省は2002年、外国格付け会社に向けて「意見書」を送付し、
〈日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか〉

 と、啖呵を切っている。ちなみに、この意見書を送付したのは、財務官時代の黒田総裁その人である。

 自ら「自国通貨建て国債」のデフォルト、つまりは「日本の財政破綻」があり得ないことを「外国」に対しては表明し、国内で財政破綻をあおり続けたのが財務省なのである。さすがに、自らあり得ないと(外国には)宣言した「自国通貨建て国債のデフォルト」について、今更「やっぱりあるかも」と言いだすことは不可能だ。

 財務省が本気でMMTに反論するならば、「自国通貨建て国債がデフォルトする」ことを証明しなければならないのだが、60ページ以上という膨大な資料のどこを探しても書いていない。代わりに、14ページにおいて、
〈内国債は、国民が貸し手であるため、将来世代への負担の転嫁は生じないとの指摘があるが、グローバル化が進んだ現代の国債市場では、妥当する余地が限られていく議論〉
 と、あたかも反・緊縮財政派が「内国債だから破綻しない」と主張しているかのごとく「藁人形(ストローマン)」をでっち上げ、釘を打ち込むことで攻撃している。いわゆる「ストローマン・プロパガンダ」である。

 筆者は反・緊縮財政の最前線で戦う一人だが、「国民が貸し手であるため、将来世代への負担の転嫁は生じない」といった主張は聞いたことがない。反・緊縮財政派は、日本国債が100%日本円建てで、日本政府は子会社の日銀に国債を(おカネを発行し)買い取らせることで、負債の返済・利払い負担が消滅する。故に、日本政府の財政破綻はあり得ない、と主張しているにすぎない。つまりは、黒田日銀総裁の言う「自国通貨建て政府債務はデフォルトしない」である。

 そもそも、MMTにしても国債の保有者が国民うんぬんについては論評していない。また、現実の日本国債の保有者は「国民」というよりは「金融機関」である。さらに、直近のデータによると、日本国債・財投債の46%はすでに日本銀行の保有になっている。

 本来、日本銀行が保有する国債・財投債の46%について、日本政府は「国の借金(正しくは政府の負債)」に含めてはならないはずだ。何しろ、返済も利払いも不要である。日本政府と日本銀行が親会社・子会社の関係にあるため、連結決算で相殺される。

 子会社の中央銀行に国債を買い取らせることで債務負担が消滅するからこそ、「自国通貨建て政府債務はデフォルトしない」のである。財務省は、この「事実」については一切否定しておらず(できるはずがない)、論評もしていない。つまりは、財務省にとって最も「痛恨の事実」というわけだ。

 MMTは、自国通貨建て国債で財政破綻するなどあり得ないことを証明してしまった。だからこそ、財務省はMMTを目の敵にして攻撃をしている。とはいえ、肝心要の「自国通貨建て政府債務はデフォルトしない」については、財務省は否定することは不可能。ならばというわけで、権威プロパガンダやストローマン・プロパガンダに頼る。
 日本国の財政を握る省庁が、「この程度の連中」であることが、改めて理解できたのではないだろうか。次回も、財務省の「反論」資料について取り上げる。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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