世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第322回グロテスクな喜劇の国

社会・2019/06/04 06:30 / 掲載号 2019年6月13日号

 経済指標の悪化が続いている。5月10日に厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、2019年3月の実質賃金は対前年比マイナス2.5%。前年比がマイナスになるのは3カ月連続で、マイナス2.8%だった2015年6月以来の低水準である。名目賃金に当たる現金給与総額も27万9922円と、前年同月を1.9%下回った。

 筆者は、昨年、厚生労働省が毎月勤労統計調査のサンプルを変更した「サンプル詐欺(2018年1月のサンプル変更以降、異なるサンプル同士を比較し、さらに補正なしで公表していた件)」を受け、「2019年1月からサンプル変更のメッキが剥げ、賃金統計は悲惨なことになる」と、予測したのだが、案の定である。’19年に入って以降、実質賃金は一度も2018年を上回ったことがない。

 2018年の実質賃金を見る際には、「共通事業所」で見た方が確実だ。共通事業所とは、2017年も2018年も共にサンプルに残り続けた企業群に限った数字である。つまりは、メッキされていないデータだ。

 左図の通り、2018年の実質賃金はサンプル変更のお化粧のおかげで、相対的に高く見えていた。それが、お化粧が落とされた2019年1月以降、悲惨な状況に陥った。

 さらに、こちらも統計詐欺だが、「いざなぎ超えの景気拡大の嘘」を暴いた際にヒストリカルDIをご紹介した。ヒストリカルDIとは、「生産指数(鉱工業)」、「鉱工業用生産財出荷指数」、「耐久消費財出荷指数」、「所定外労働時間指数(調査産業計)」、「投資財出荷指数(除輸送機械)」、「商業販売額(小売業 前年同月比)」、「商業販売額(卸売業 前年同月比)」「営業利益率(全産業)」、「有効求人倍率(除学卒)」の9つの景気動向指数のことで、各数値から景気の方向性が把握できる。

「いざなぎ超えの景気拡大の嘘」とは、前述の9つの景気動向指数の内、2014年4月に何と7つが「悪化」になったにも関わらず、景気後退として認定されなかった件だ。もちろん、財務省が消費税増税(2014年4月)により景気が悪化したことを認めるわけにはいかなかったためだが、直近(2019年3月)の指数を見ると、「投資財出荷(マイナス0・28)」、「耐久消費財出荷(マイナス0・27)」、「生産(マイナス0・15)」、「有効求人倍率(マイナス0・14)」、「商業販売額卸売(マイナス0・13)」と、5つが大幅なマイナスに陥ってしまっている。

 指標悪化を受け、内閣府は今年5月13日、国内景気の基調判断について、6年2カ月ぶりに「悪化」と発表(もちろん、実際には2014年4月に日本の景気は大幅に悪化していたが、なかったことにされた)。

 今回の基調判断では、特に「有効求人倍率」までもがマイナスになったのが衝撃である。生産年齢人口比率が低下している状況で有効求人倍率が悪化するとは、洒落にならない。

 菅官房長官は景気判断の悪化を受け、「雇用や所得など内需を支える(日本経済の)ファンダメンタルズ(基礎的条件)はしっかりしている」とコメントしている。雇用はともかく、実質賃金という所得がひたすら落ち込んでいる状況で、相変わらずの寝言を言っている、という印象だ。しかも、2019年3月は名目賃金まで下がってしまった。

 そして5月20日には、2019年1―3月期のGDP統計が発表になった。驚くべきことに、対前期比プラス0.5%の成長ではあった。

 もっとも、中身を見ると、民間最終消費支出がマイナス0.1%、設備投資もマイナス0.3%、外需(輸出)も予想通りマイナス2.4%(数字はすべて対前期比)。

 個人消費や設備投資、さらには輸出までもが落ち込んでいるにも関わらず、なぜGDPがプラス化したのか。実は「輸入の減少」が大きな理由なのである。1―3月期の輸入は大きく落ち込み、対前期比マイナス4.6%。輸入はGDPの控除項目であるため、大幅な輸入減が経済成長率を押し上げてしまったのだ。

 輸入の落ち込みによるGDP拡大、つまりは内需縮小型の経済成長。

 この結果を受け、今年10月に予定されている消費税増税は、強行されるのか、延期されるのか、凍結されるのか。最悪か、最悪より少しマシな悪か、最悪より少しマシな悪よりマシな悪か。緊縮病に冒された我が国が、致死毒を飲むか、意識不明になる毒を飲むか、体調悪化が継続する毒を飲むのか。

 我が国は令和の御代を迎え、今年10月に即位礼正殿の儀が、11月には大嘗祭が行われる予定になっている。国民が陛下のご即位をお祝い申し上げるのと同時に、消費税率が10%に引き上げられ、経済は再び谷底に突っ込む。

 もはや、我が国は歴史に残したいほどのグロテスクな国家である。相次ぐ指標の悪化は、日本国が「消費税を決して上げてはならない」ことを示している。

 しかも、新たな御代を迎え、陛下の即位をことほぐ儀式が控えているタイミングで消費税増税を強行するなど、大げさでも何でもなく「喜劇の国」だ(悲劇の国、ではない)。

 今年5月21日、元内閣官房参与の藤井聡京都大大学院教授が、岩田規久男元日銀副総裁らと国会内で消費増税に反対する会合を開き、その後、首相官邸を訪ね、西村康稔官房副長官に今年10月の消費税増税に反対する経済学者らでまとめた意見書を手渡した。筆者も名を連ねている、「消費税増税の『リスク』に関する有識者コメント(http://tra
ns.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/190507-2)」である。

 安倍政権が最終的にどう判断するかは不明だが、いずれにせよ財務省の緊縮財政至上主義が継続される限り、消費税の増税路線は続くことになる。消費税率10%への引き上げにしても、別に終わりではないのだ。

 MMT(現代貨幣理論)などが解く「現実」を国民が理解し、日本が「財政破綻」する可能性はゼロであるという前提で、緊縮路線を転換する。これが実現できない場合、我が国はグロテスクな“喜劇の国”のままで、令和の御代も平成同様に「国民貧困化の時代」となることは確実である。

********************************************
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

関連記事
関連タグ
社会新着記事