加藤雅也インタビュー ストリップ劇場の名物社長を快演『彼女は夢で踊る』

エンタメ・2020/04/10 12:00 / 掲載号 2020年4月16日号

 加藤雅也主演の恋愛映画『彼女は夢で踊る』が、4月10日からロードショー公開される。実在するストリップ劇場を舞台に、名物社長と踊り子との秘められた恋を描いたストーリーだ。

――舞台となった広島㐧一劇場は、閉館すると言われながらまだやっているようですが?
加藤 はい。地域開発で周辺も含めホテルになるみたいですが、『計画がまとまるまで家賃を払うからやらせてくれ』『いいよ』の繰り返しです。この映画の広島先行公開後、客が増えているんです。前は1日5人とかだったのですが、社長は儲かったお金で劇場を改修しています。エアコンを交換したり、屋上の物干し場に屋根を付けたり。

――また、何かが生まれそうですね。
加藤 広島を舞台にした第2弾もすでに撮ってきました。題名は『愚か者のブルース』です。横山雄二さんが監督で、映画を撮れなくなった監督(加藤雅也)とピンサロ嬢(熊切あさ美)のヒモ生活の話。もうすぐ出来上がるはずです。

――『彼女は夢で踊る』を作るまでには、大変なこともあったのでは?
加藤 ヒロイン役を誰にするか…脱ぐ、踊れる、演技力を満たす人がなかなか見つからない。岡村いずみさんに決まったのですが、プロフィルにはダンスができるとは書いてなかったんです。実際にはクラシック・バレエの基礎があって、これはうれしい誤算でした。神風が吹いたみたいで、彼女でなければできない作品になりました。劇中の観客も彼女を本物の踊り子さんだと思ってしまい、勝手にサイン会を始めるし(笑)。そう見えたのは見事だったと思います。
 何度も閉館の危機にさらされながら、しぶとく生き延びて、ストリップ興行を続けてきた広島㐧一劇場。そこには幾多のドラマが生まれ、踊り子さんが壁に付けたキスマークとともに、現在に至るまで消えることはなかった。

――映像がきれいですね。
加藤 時川(英之)監督はどちらかというとロマンチックが好きな方、生々しいのは嫌いですね。撮影カメラマンにこだわりがあって、僕が別の仕事をしたことのあるオーストラリア人を推薦し、監督も英語ができる人なので、受け入れてくれました。音などは編集で修正できますが、映像は換えようがないですから。ストリップという題材なので、日本人の隠微な目線より、外国人の目線でとらえたほうがいいと思ったんです。

★広島には絆やパワーがある

――加藤さんはパーマをかけて口ひげをつけて、二枚目のイメージとはずいぶん違いますね。
加藤 決してものまねをやったわけではなく、社長の人となりや話を聞いて台本にしているので。ものまねをしたら演技じゃなくなりますからね。社長をよく知っている広島の方やストリッパーの方たちには、感覚が似ているとか、そっくりだとか言われました。

――広島弁の勉強は?
加藤 社長が実際に関西から広島に住みついた人なので、(しゃべりは)あんな感じなんです。そういう意味で奈良育ちの僕に向いてました。映画は社長のリアルライフを描くわけでもないし、逆に訛りにフォーカスすると、演技の集中力が30%ぐらい減りますから。

――すべて実在する場所で撮られ、広島出身の方も多く参加されています。
加藤 広島人でやる広島映画。広島カープに助っ人の外国人選手がいるみたいに、広島映画に東京から僕が参加したということ。広島はもともと市民球場を持っていたところだし、カープが強いときも弱いときも応援し続ける、郷土愛の強い土地柄です。芸能界にも広島出身者は多く、しゃべるとすぐ広島弁になったりと、絆やパワーがありますね。

――わいせつ騒ぎがあったり、場内でバットを振り回す男性もいたりしますが、どれも本当にあったことですよね。
加藤 そうです。すべて社長に聞いた話をベースにしています。

――社長と愛しのサラとの“関係”は、実際のところどうだったのでしょう?
加藤 若いときには手を出せず、消え去った彼女が帰って来られる場所(劇場)を守ったけど、結局、帰って来なかった。関係なかったんでしょうね、という解釈です。『オペラ座の怪人』のようなもので、劇場の精が女の子だったのかもしれない。これも監督のロマンチストなところでしょう。

――主人公の青年時代を演じたのは犬飼貴丈さんですが、純情でナイーブな青年ですね。彼の変貌ぶりを見られるのも面白い。
加藤 巻き込まれ型ですね。失恋して街を歩いていて、やることないなら…と(この仕事を)始めた。犬飼と僕の間のギャップ、それが人間の歴史なんだな。犬飼が昼ドラに出ているのを見て、フランス映画の主人公みたいな感じで、この子いいなぁ、ちょっと持ってるものが違うな、と思っていました。僕と同じ事務所だけどバーターで使ったわけではありません(笑)。
 作品を魅力的なものにしているのは、ストリップを本業としている矢沢ようこさんの存在も大きい。ステージで見せる圧倒的なパフォーマンスはもちろん、加藤雅也との絡みで見せる表情の豊さもたまらない。

――矢沢ようこさん、素晴らしいですね。彼女を見るだけでも価値がある。
加藤 すごかったですね。観客がみんな泣いてましたから。にじみ出るものがあります。振付師としても表現者としても一流。ようこさんも『この先、女優をやっていきたいんですよ』とおっしゃっていたから、もっと表現されたらいいんじゃないですか。

――劇場前で道路に座り込んでキスしたり、ホテルのベッドで彼女がつぶやくところとか…見せますね。
加藤 いいシーンになりましたね。ベッドのところなどは、日本人が撮ると俯瞰になるけど、外国人カメラマンは側面からの撮り方をする。つぶやくにしても、セリフが聞こえる、聞こえないじゃなくて、何を言ってるのか分からないけど、何か壁のある2人の関係なんだなと表現できる。セリフはあくまでも補助ですから。ようこさんはステージでも、架空の男の人の前で踊るようにやっています。

――踊り子さんというのは、本質的にナルシストなんでしょうか?
加藤 もちろん、いろいろな方がいると思いますけど、やはり外国のストリップとは違いますね。(日本ならではの)哀しみだとか…文化じゃないですか。撮影前に監督から、自殺しようというときにストリップ劇場の前を通って、死ぬ前にと思って見て、死ぬのをやめるという話がありました。矢沢さんが最後に出て踊ってみせるシーン、何か感じますね。

★リズムに合わないのも表現

――ご自身、ストリップを見られたことは?
加藤 外国に行ったときには、ジェントルマンズ・クラブとかで簡単に見られますけど、日本ではこの作品をやることになって、浅草のロック座に行きました。思っていたものと違って、フランスのムーラン・ルージュのようでした。日本のストリップって外国のストリップとは一線を画す特殊な文化なんだなと思います。

――大切にしたいですね。
加藤 いま現在は裸が氾濫していて、ストリップは絶滅の危機にあるんでしょうけど、政府は寿司や漆をクールジャパンと言ってますが、ストリップを日本の歴史からとらえて、外国人監督がきちんと残してくれてもいい文化じゃないかと思います。こういう年齢になって、ストリップ道のようなものがあるような気がしますね。ベースボールじゃなくて、野球道みたいな。

――ラストは、ご自身が法被姿で踊ります。陶酔しているような感じで、見ていて圧倒されました。
加藤 9日で撮りましたけど、『ラストは(閉館を前にして)社長としてどうする?』と言われてやったのがあれです。『ステージで踊ってくれ』と監督に言われて。僕自身、すごいステップができるわけじゃないし、自分の気分のままに動いたものです。リズムに合ってないというのはありましたが、合わないのも表現だ、と。抗う、俺は世の中に合わせてないんだ、みたいな。実際は15分ぐらい何回もやってるんですよ。もうシンドと思いましたが、結果、『意外にあのシーン、いいね』と言われますね。

――今後のご予定とかは?
加藤 この状況(コロナ騒動)で、予定していた香港の仕事は完全に止まっています。昨年は故郷の奈良で、ハードボイルドの短編映画を撮りました。題名は『決着』です。歴史という膨大な時間の前で芝居をやれば、低予算でも重みが出てくるという試みで。どういう形で上映するかまだ分かりませんが、面白いものになったと思います。

――ベテランの域に達してきたと思うのですが、今後演じてみたい役は?
加藤 まだまだ、やってない役はたくさんありますよ。刑事でも弁護士でも叩き上げというのはやっていませんし、文学者もないな。明治の日本が変わりつつある頃の、政界の人間もやってみたいですね。

――憧れている男優がいたら、教えてください。
加藤 子どもの頃から松田優作さんが好きだったから、それはまず一番に挙がりますね。高倉健さん、三國連太郎さん、勝新太郎さんとか、そういう方の芝居を見ていても、やっぱりいいですし。外国ではアル・パチーノとか好きです。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。
加藤 ストリップというと、女が見るものではないとかエロとか思われますが、まず見てもらって、みなさんにこういう消えゆく文化があるということを知ってもらいたいですね。

●加藤雅也●
1963年生まれ、奈良県出身。ファッション誌『メンズノンノ』のモデルや、パリコレのモデルとして活動後、俳優に転身。映画『マリリンに逢いたい』(’88年、すずきじゅんいち監督)でデビュー。以来、国内外を問わず、映画やドラマ、舞台に至るまで幅広く活動中。

関連記事
エンタメ新着記事