菜乃花 2018年10月04日号

USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 弟子も首位打者を争い、年俸以上の存在感を示す41歳 「準備の天才」と言われるイチローに対する再評価

掲載日時 2015年09月12日 14時00分 [スポーツ] / 掲載号 2015年9月17日号

 8月14日に敵地セントルイスで行われたカージナルス対マーリンズの一戦で、イチローが1回表に日米通算で4192本目となるヒットを放ち、メジャー歴代2位の記録である“球聖”タイ・カッブの4191本を抜いた。
 大リーグではアウェーで戦う場合、球場は敵方のファンで埋め尽くされているので、大記録をマークしても無視されることが多い。拍手の代わりにブーイングを浴びせられることも珍しくないが、イチローは例外だった。場内放送で知らせたわけでもないのに、球場を埋め尽くしたカージナルスファンがスタンディング・オベーションで讃え、それにイチローがヘルメットを取って応えるという感動的なシーンが見られたのだ。

 米国メディアも、これまではレベルの低い日本での記録とメジャーでの記録を合算するのは無意味とし日米通算記録には冷淡だったが、今回はいつになく好意的で、多くのメディアがタイ・カッブの時代は打者有利で4割打者がゴロゴロいたことや、イチローがメジャーに来て10年目まではオリックス時代とあまり変わらないペースでヒットを量産していた点をあげて「タイ・カッブ超え」を素直に賞賛するところが多かった。
 ポジティブに報じるメディアの多くは、イチローが来季中にメジャー通算3000本安打と日米通算でピート・ローズの4256本を抜く可能性があることにも言及。MLBコムは、マーリンズが契約更新に前向きになっていることや、41歳になってもイチローが故障知らずで足にも衰えが見られないこと、依然としてメジャーNo.1の高い野球IQの持ち主であることなどを考えれば、メジャー3000本安打と日米通算4256安打を達成する確率は90%と予測している。

 イチローの今季の成績は8月27日現在、打率2割5分7厘、出塁率3割1分5厘で、どちらもメジャーの平均値に限りなく近い数字だ。衰えたとはいえ、安打製造機のイメージがある打者の数字としてはやや寂しいと言わざるを得ない。昨季はヤンキースで打率2割8分4厘をマークしているので、本来なら契約を更新してもらえる数字ではない。
 しかし、GMを兼任するジェニングス監督は契約更新をする可能性が高いことを明言しており、地元メディアもそれをポジティブに評価している。

 地元の有力メディアが安打や盗塁の通算記録以上に高く評価しているのは、試合前の準備が素晴らしいことだ。
 マイアミの最有力紙『サン・センチネル』は、イチローの試合前の準備は前日の試合が終了した直後に始まっているとし、メジャーでは用具係の仕事であるスパイク磨きを、自らブラシを手にしてやっていることや、グラブにオイルを含ませ皮を軟らかく、最高の状態に保っていることなどを紹介。
 さらに、家に帰っても、食事の前後に器具を使ったトレーニングをたっぷりやっていることと、就寝前に毎晩2時間のマッサージを受けていること。翌日は目覚めた後、軽くトレーニングしてから誰よりも早く球場入りすること。試合前は全身の筋肉を発砲スチロール状のローラーを使ったマッサージを入念に受けて筋肉を最高の状態に保っていること。オールスター休みの期間中、他の選手がバケーションを楽しんでいる中でイチローだけが毎日本拠地のマーリンズパークに来て、2時間トレーニングに汗を流していたことなども紹介し、イチローが41歳まで現役生活を続けることができた秘訣はルーティーンの小さなことをおろそかにせず、長い間積み重ねてきたことによるものと結論付けている。

 イチローの求道者的な姿勢はチームの若い選手にも好影響を与えており、記者やアナリストの中には、ディー・ゴードンの大化けの影にはイチローの絶え間ない助言があると見る向きが多い。
 ゴードンは昨年までドジャースに在籍していた快速二塁手で、昨年の盗塁王であるにもかかわらず、打撃面での評価が低いため、オフにマーリンズにトレードで放出された。
 しかし、キャンプでイチローに弟子入りすると打撃技術が向上し、シーズン開幕後は、驚異的なペースでヒットを量産。一時は師匠イチローの持つシーズン安打記録262本を更新するのではないかと期待された。
 7月にスランプに陥り、一時は打率リーグトップの座から滑り落ちたが、ゴードンは8月に入って復調。
 現在は打率首位の座を奪い返しており、首位打者の最有力候補と見なされている。強みは全盛時のイチロー同様、いざとなればバントヒットで安打を稼げることだ。
 ゴードンが首位打者のタイトルを手にすることになれば、師匠の存在もクローズアップされることになり、イチローにさらなる付加価値が付くことになる。マーリンズに来たのはヤンキースから契約更新を拒否された末のことだが、結果的にこのチームに来たことは、いいことづくめになった感がある。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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