菜乃花 2018年10月04日号

“単なる腹痛”と思うことなかれ 侮れないみぞおちの痛み

掲載日時 2018年03月31日 08時00分 [健康] / 掲載号 2018年4月5日号

 みぞおちが痛い場合、“胃の調子がよくない”と思い込まないほうがいい。ひょっとすると、それが命にかかわる病気かもしれないからだ。

 2月21日、ドラマの撮影先の千葉県で、心不全のために亡くなった俳優の大杉漣さん(享年66)。あまりにも突然すぎる最期に、いまだに信じられないという人は多く、その若さにもショックを受ける。
 大杉さんは亡くなる前日、20日の21時頃に撮影を終え、ホテルへ戻って共演者らと食事をしてから自分の部屋に戻り、21日0時頃、共演者たちに腹痛を訴え始めたという。ただならぬ状態に共演者が大杉さんを介抱しようとしたが、腹を抑えて苦悶する様子は変わらず、タクシーで病院に搬送された。
 撮影中も変わった様子は全くなかったという大杉さんは、そのまま21日午前3時53分、急性心不全により息を引き取った。

 このような突然死(発症後、24時間以内に急死すること)を起こす原因は、心臓疾患が6割で、そのうち心筋梗塞に代表される虚血性心疾患が8割と圧倒的だという。また、突然死の残り4割のうち、およそ半分は脳出血やクモ膜下出血などの脳卒中で、残りは肺や消化器系の病だ。
 東邦大学医療センター大橋病院消化器内科担当医はこう言う。
 「大杉さんの場合、発症時に腹痛を訴えていたとのことですが、もともと心疾患を抱えていた可能性もある。心臓はみぞおち付近に位置する臓器ではありませんが、狭心症、心筋梗塞、さらに腹部大動脈瘤といった心血管疾患によっても、痛む場合があるのです。心臓や血管の痛みは、みぞおちや背中などの痛みと同じく、脊髄を通って脳に伝えられる。このとき脳が痛みを起こしている箇所を取り違えると、一見、関係のない箇所に痛みを感じてしまう。これは、放散痛と呼ばれるものです」

 心臓疾患を抱える人の場合、もともと高血圧や高血糖、高脂血症や肥満といったリスクを持っているケースがほとんどだという。
 「そうした状況で、みぞおちが痛いと訴える患者さんは、必ず心電図検査も行います。患者さんのほうも、胃カメラ検査だけでは正確な結果が出ないということを頭に入れておいたほうがいい」(内科医)

 東京都内でこの5年間に突然死した約1万8000件のうち、大杉さんのような休息中に発症した割合は8.2%、食事を含む飲酒中は3.4%、乗車中は1.4%というデータがある。また、意外に多いのが就寝中で、約3割にも上るという。
 「就寝中でも、朝方に起こることが最も多いとされています。その際も、放散痛によって、みぞおちあたりに激痛が走る場合もある。寝起きなだけに意識の中で“単なる腹痛か”と考えつつ、そのまま取り返しがつかないことになるということです」

 こうした突然死に限らず、みぞおちの痛みは侮れないものがある。
 「みぞおち部分には、いくつもの臓器が入り組んで重なり合っています。付近には肝臓があり、その裏が胃と十二指腸。さらに胃の裏側には膵臓、向かって胃の左側には、胆のうや胆管があります。これらの臓器の疾患は、みぞおちの痛みとして現れるケースが多い。もちろん、胃炎、胃潰瘍、十二指腸、胃がんといった胃の病でも、みぞおちに痛みが出ますが、100%胃が原因というわけではないので注意が必要です」(東京都立多摩総合医療センター総合内科外来担当医)

 こんな例もある。サラリーマンのSさん(54歳)は、みぞおちの辺りの痛みが続いたことで、近所のクリニックを受診したという。胃カメラの検査を受けたが、異常は見当たらなかった。ひとまず処方された胃薬を飲んでみたが、痛みは少しも治まらない。
 そこで消化器専門医のいる医療機関を改めて受診した。そこで胃カメラとエコー検査をすると、1センチ未満の大きさの膵臓がんが見つかったのだ。同医療機関は大学病院を紹介、すぐに手術が行われ、がんのある膵頭部と転移があったリンパ節を切除。その手術から2年が経過した今、Sさんは元気に生活している。
 「膵臓は左右に細長い臓器で、膵頭部、膵体部、膵尾部に分かれます。Sさんのように、膵頭部にがんができた場合、比較的早い段階でがんが胆管や膵管を塞いでしまうことが多く、閉塞性の胆管炎や膵炎を起こした症状として出ます。膵頭部は胃の裏側にあるので、みぞおち付近が痛むのです。Sさんの場合は、その痛みを手掛かりに幸い早期に発見し、治療ができたのです」(医療ライター)

 このように、「みぞおちが痛くて胃の検査を受けたが異常はない。胃薬を飲んでもよくならない」と、病院を移して病が判明することはしばしばあるという。胃カメラでたとえ異常が見つからなくても、腹部のエコー検査やCT検査を行うと、膵炎、胆のう炎、胆管炎といった病気だけでなく、膵臓がん、胆のうがん、胆管がん、肝臓がんなど命に関わる病気が判明するケースは多いのだ。
 「みぞおちの痛みは、本人には胃の痛みとして認識されることが多い。しかし、そう思い込んでいると重大病を見逃すことにもなりかねません。医師でさえ、中には、“みぞおちの痛み=胃が原因”と決めつけてしまう場合もあるのです。そのため、医者にかかる時は、必ず胃カメラ検査と一緒に腹部エコー検査やCT検査を行ってもらうようにしましょう。胃や腹の中にはガスが溜まっているため、エコーでは完全に見ることができないことから胃カメラは必要です。しかし、逆に胃カメラでは膵臓や肝臓などは見ることができない。胃の周囲にある臓器は、エコーやCTで見る必要があると思います」(前出・内科医)

 もちろん、みぞおちの痛みの原因は、他にも様々なものがある。
 「食あたりや盲腸、ストレスなどでも、痛みが出る場合がある。また、日常生活でも空調が体に合わなかったり、昼夜逆転した乱れた生活によって自律神経が乱れ、これが胃酸過多につながって症状が出る時もあります。そうしたことから、医者に診てもらう際は、いつからか、どのように痛いかなどをしっかり伝える必要もあります」(同)

 みぞおちの痛みは侮れない。

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