世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第366回 わずかGDP比3%の緊急経済対策

社会・2020/04/21 06:00 / 掲載号 2020年4月30日号
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第366回 わずかGDP比3%の緊急経済対策

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 2020年4月7日、安倍総理大臣は中国武漢発祥の新型コロナウイルス感染症の蔓延を受け、東京都など7都府県を対象に、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。同宣言に基づき、都道府県知事により住民の外出自粛要請、イベントの制限・停止の要請・指示が行われることになる。また「多数の者が利用する施設」の使用制限や停止も要請可能だ(最終的には、都道府県知事の判断になる)。

 日本の経済活動は一気に縮小し、GDP(国内総生産)は大幅なマイナス成長になる。というわけで、当然の話として「経済対策」が必要な局面だが、緊急事態宣言と同時に発表された「緊急経済対策」は、恐ろしいほどに「小さい」ものだった。

 安倍政権は、4月6日の時点で「総額108兆円規模の緊急経済対策を実施する」と発表した。108兆円が、すべて「新規国債発行=財政赤字=国民への貨幣供給」であるならば、日本のGDPの2割の需要創出となる。日本経済は救われる。

 とはいえ、そもそも「事業規模」とは何なのだろうか。また、不思議なことに、4月6日の政府発表では、肝心要の「新規国債発行額」は報じられていなかった。

 翌日、事業規模108兆円、財政支出39・5兆円と、「見た目」だけは巨額な経済対策が報じられたのだが、案の定だった。

 元々、筆者は今回の「緊急経済対策」は、不十分な財政赤字=国債発行を、「貸付枠」「財政投融資(これも貸付だ)」「地方への負担押し付け」といった手法で膨らませてくると予想していたが、その上を越えてきた。何と、安倍政権は、
「社会保障や納税の支払い『猶予分』を上乗せする(免除、ではなく、猶予)」
「前回の経済対策(事業規模28兆円)の未執行分を乗せる」

 と、細いエビの周りに分厚く衣をつけて揚げたエビの天ぷらを「事業規模108兆円」と報じていたのだ。しかも、108兆円をGDPと比較し、
「GDP比で20%の経済対策!」
 などと、総理は胸を張って説明していたのである。

 筆者が注目していたのは、1つだけだ。すなわち、新たな財政赤字=新規国債発行のみである。

 図は、国民経済のイメージ図だ。国民経済を「シンク(水槽)」と考えると、水位がインフレ率になる。インフレ率は、もちろん民間経済における「消費性向」「所得」「信用創造(=銀行融資)」「投資」「生産性」といった、各種の要素により変動する。

 さらに、政府支出や徴税によっても、水の高さは変わる。

 水位が勢いよく上昇し、水がシンクから激しく溢れる状況が「高インフレ」だ。逆に、水位がひたすら下がっていくのがデフレ。いずれも、国民経済にとっては望ましい状況ではない。政府は水位(インフレ率)を見ながら、適正な政府支出や徴税を「調整」する必要がある。

 現在の日本は、もちろん国民経済のシンクの水量が急激に減っている状況に置かれている。’19年10月の消費税増税に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる自粛が加わり、経済活動は「超」低迷。特に、シンクの中の「所得」が勢いよく縮小している有様だ。

 当然、政府は「ジョウロから注ぐ水を増やす(財政赤字=国債発行の拡大)」及び「排水管から水を抜くのを減らす」といった手を打たなければならない。

 排水管から水を抜くのを減らすとは、具体的には、「消費税率0%」であり「社会保障費の減免」になる。当たり前だが、税金や社会保障費の支払い「猶予」は、配水管を閉じたことにはならない。

 また、すでに予算が決まっている「ジョウロA」で注ごうとしていた水を、「ジョウロB」に移し替えて注いだところで、シンクに新たに注がれる水量が変わるわけではない。

 安倍政権は、配水管を締めず、ジョウロから注がれる水量をほぼ増やさず、
「排水管から水を抜くのを、しばらく猶予する(税金・社会保障の支払い猶予)」
「ジョウロAで注ぐ予定だった水を、ジョウロBに移し替える」
「シンクの中の企業が借りれるカネを増やす」
 といった手法で数字を積み上げ、「事業規模108兆円」と誇っていたわけだ。

 結局のところ「ジョウロB」から新たに注がれる水は何リットルなのか。16・8兆円であった。対GDP比で、わずか3%。

 日本政府は4月7日、総額16兆8057億円の2020年度一般会計補正予算案を編成。財源に赤字国債14兆4767億円、建設国債2兆3290億円を充てる方針も併せて盛り込み、閣議決定された。

 つまりは、新規国債発行額(財政赤字)は、16.8兆円。

 108兆円事業規模だの、39・5兆円財政支出だのと騒いでいるが、新たに国会で補正予算として成立させる予算は、16.8円のみなのだ。他の対策は「貸付枠拡大」「他の予算からの付け替え」「財政投融資などの政府の貸付」「社会保障費や税金の徴収の猶予」など、プライマリーバランス(PB)と無関係なものばかり。PB黒字化目標に影響するのは、16.8兆円のみである。

 今回の16.8兆円の補正予算は、確実に「第1次」補正予算と呼ばれることになるだろう。理由は、すぐさま「第2次補正予算」が必要になるためだ。

 何しろ、外出自粛やイベント自粛、小中高全国一律休校などにより、サービス産業(飲食、宿泊、タクシーなど)は「所得消滅」のの憂き目に遭っている。さらに、緊急事態宣言を受け、多くの店舗が「閉鎖」に追い込まれる。

 今回の補正予算で、日本政府は、最低でもGDP比10%の財政赤字=国債発行を決断しなければならなかった。ところが、現実はわずかに3%。

 このままでは、政府の失政により多くの国民が所得を喪失し、飢え、死んでいくことになる。あるいは、生き延びるために国民が移動してしまい、感染症の蔓延も防げない。

 国民は数字マジックに騙されず、政府に「国債発行で自分たちの生命を守れ」と声を大にして叫ぶ必要があるのだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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