久松かおり 2019年4月4日号

あおり運転より恐ろしい“整備不良”が原因でブッ飛んでくる大型タイヤ

掲載日時 2019年01月10日 18時20分 [社会]

あおり運転より恐ろしい“整備不良”が原因でブッ飛んでくる大型タイヤ
画像はイメージです

 大型車両のタイヤは直径1メートル、重さ100キロにもなる大型凶器だ。

 2002年に横浜市で三菱ふそう(現:三菱ふそうトラック・バス=ダイムラーの連結子会社)製トレーラーによる母子3人の死傷事故があった。この事件をもとにした池井戸潤氏の社会派小説『空飛ぶタイヤ』が出版され、昨年には長瀬智也主演で映画化もされている。

 この事件に世の中は震撼したが、重く受け止めた三菱ふそうは事故後の04年3月に、製造者責任を認めて国土交通省にリコールを届け出た。

 実は事故の前々年の00年には、運輸省(当時)の監査で三菱自動車工業(以下:三菱自工)の乗用車部門およびトラック・バス部門だった三菱ふそうによる大規模なリコール隠し事件が起きていた。

 04年にはトラック・バス部門のさらなるリコール隠しが発覚して、乗用車部門も再調査され、これが決定打となり、三菱自工・三菱ふそうはユーザーの信頼を失い販売台数が激減。当時の筆頭株主であったダイムラー・クライスラー(現:ダイムラーAG)から資本提携を切られ、深刻な経営不振に陥る。何とか三菱グループの支援により倒産だけは脱し、現在は日産自動車が筆頭株主となり、同社とフランスのルノーと共にルノー・日産・三菱アライアンスを構成している。

 タイヤ脱落は、00年代前半に上記事故の原因となった三菱自製の大型トラックの部品「ハブ」が相次いで壊れた問題などで啓発が進み、一時減少傾向にあったが、11年度の11件を底に増加傾向に転じている。

 母子死傷事故を思い出させる大型トラックやバスのタイヤが走行中に外れる事故が、11年からの6年で、6倍超に急増し、17年度は67件(国交省集計)にも上った。冬タイヤの交換作業ミスが目立つが、17年度の脱落事案の83%(56件)が左後輪に偏っていることも分かった。

 一体なぜなのか。
「左は歩道に近い側で極めて危険です。17年度の内訳を見ると、9割ほどが冬用タイヤの交換など着脱の3カ月以内に発生しており、約9割がボルトを規定値まで締め付けていないなどの作業ミスと推定されました。ミスが増えている要因としては、近年の輸送業界の整備部門における人手不足が指摘されています」(国交省担当記者)

 国交省の資料によると、宅配ドライバーなどの人手不足は半ば常識化しているが、実は自動車整備要員の有効求人倍率(17年度)は3.73倍で、全職種(1.54倍)を大きく上回っている。

 さて問題の左である。08年4月には、静岡県の高速道路で大型トラックの左後輪が外れ、対向車線の大型観光バスに衝突し、バス運転手が死亡、乗客7人が負傷した。昨年6月にも愛知県で大型トラックのタイヤが外れ負傷者が出ている。

上記以外にも、
<00年>北海道でトレーラーのタイヤが外れ、対向の乗用車に当たって運転者が死亡。
<04年>北海道で大型ダンプから車輪が脱落。歩道を歩いていた幼児に直撃し死亡。
<16年>札幌市で走行中の大型ダンプの車輪が脱落。走行中の軽乗用車に衝突し運転者が負傷。
<17年1月>新潟市で走行中のトレーラーの左後輪が外れて対向車線の軽乗用車に当たり、運転者が負傷。
<17年3月>京都府で大型トラックの左後輪が脱落。約400メートル転がって信号待ちの軽乗用車に衝突し運転者が負傷。

 左後輪の脱落の理由は次の3つが考えられている。①道路は一般的に中心部が高く、両端は低くなっている。車は対向車との接触防止などのため、なるべく道の左に寄って走る(キープレフト)よう求められていることから、左側のタイヤの負荷が大きい。②旋回半径が小さい左折時に、左後輪がコンパスの針の部分のようにほぼ回転しないまま、よじれてしまう。③左折よりもスピードを出しがちな右折時の遠心力により、積み荷の荷重が左後輪に偏るとの説だ。

 国交省などが15年に全国1252の運送事業者に行った調査では、68.8%の事業者が「ドライバーが不足している」と回答しているが、こうした現場の余裕のなさも事故原因にあるのではないかとの指摘をする向きもある。

 その一方で、同省自動車局は「タイヤ交換に特別な資格は不要だが、熟練者の高齢化による退職で、正しく脱着する知識や能力を持たない人がタイヤを交換している可能性もある」とみている。

 自動車整備工場は大きく分けて「ディーラー系」と「街の整備工場」の2つがある。
「給与はディーラーの方が高く、それ以外は安いが全体的に他業種に比べて低いのです。この分野にも外国人研修生が多く入ってきています」(都内の実習生派遣会社)

 外国人労働者の技能向上によって”空飛ぶタイヤ”はなくなればいいのだが…。


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