やくみつるの「シネマ小言主義」 100%負け犬男の_一発大逆転『グリンゴ/最強の悪運男』

エンタメ・2020/02/16 07:00 / 掲載号 2020年2月20日号
やくみつるの「シネマ小言主義」 100%負け犬男の_一発大逆転『グリンゴ/最強の悪運男』

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 題名の「グリンゴ」とは、スペイン語の「よそ者」。メキシコ人など、ヒスパニックの人々がアメリカ人を小バカにするニュアンスで使われる言葉らしいです。

 日本語でいうと「アメ公」でしょうか。上から目線や差別意識が少しでも見つかろうものなら即、大炎上の日本では、ヒヤヒヤしてしまう、あっけらかんとした題名です。トランプの非モラルな毒舌ツイートに慣れ切ったアメリカでは、もはやどうってことないのかもしれません。そして副題に「最強の悪運男」とあります。植木等の往年の名作を思わせるようなノリに、つい、ドタバタコメディーを想像してしまいました。

 誰にでもありますよね。やることなすこと、ことごとく裏目に出る日が。私なんか、「今日はついてない」、「今日はいい日」だといちいち意識しがちなので、よく思います。本作では、真面目に勤めていた会社からクビを宣告されるわ、嫁は親友と不倫していて離婚を言い出されるわ、踏んだり蹴ったりのところに、命まで狙われ続けるという悲運の男の逆転物語。

 自分の身の周りに起きるようなちっぽけな悲運のスパイラルとは桁違いですが、それほどは笑えない。なぜかと考えてみたのですが、映画のメインとなる主人公の襲われ方が似たテイストになっているせいかと。全部、皆が一様に撃ってくるだけだから、ドタバタ感とは違ったのかもしれません。

 ヒヤヒヤするといえば、ナイジェリア系黒人の主人公を「ゴリラ」呼ばわりして例え話をしたり、殺し屋たちに「アメリカ人はなるべく殺したくない」と言わせたり…。シャーリーズ・セロン演じる「最強のビッチ」の際どいNGワードより、そっちの方が気になってしょうがないんです。

 さらには、メキシコの一方的な描かれ方。まるで、麻薬マフィアの巣窟のように描くのは、もはやアメリカ映画のド定番になっているのかと疑うほど。タクシーに乗ったら、すぐ頭に袋を被されて誘拐されるような治安の悪さが強調されていますが、中南米好きの自分はメキシコにも行ったことがありますが、よほどヤバい地域に行かない限り、そんなことはありませんよ。

 一方、懐かしかったのは、メキシコに観光旅行に来たカップルが蝶の越冬地を訪れるシーン。オレンジに黒の斑点のオオカバマダラが「蝶のシャワー」のように飛び交う様は確かに圧巻でした。

 主人公がどう逆転するかは見てのお楽しみですが、自分らの人生だってどう転ぶか分からない。だって、漫画家が壇蜜と結婚できることもあるんですからねぇ。

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■グリンゴ/最強の悪運男
監督/ナッシュ・エドガートン 出演/デヴィッド・オイェロウォ、シャーリーズ・セロン、ジョエル・エドガートン、タンディ・ニュートン、ユル・ヴァスケス、シャールト・コプリー、アマンダ・サイフリッド 配給/キノフィルムズ/木下グループ 2月7日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー。
■真面目に働いていたハロルド(デヴィッド・オイェロウォ)は、会社から首を言い渡され、信頼していた経営者と妻に裏切られ、人生のどん底からの一発逆転を誓う。彼は上司のリチャード(ジョエル・エドガートン)と性悪女のエレーン(シャーリーズ・セロン)に復讐するため、出張先のメキシコで偽装誘拐を演じ、5億円の身代金を奪う計画を立てる。一方、ハロルドが死ねば会社に保険金が入ることを知ったリチャードは、殺し屋を雇うことにするが…。

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漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)レギュラー出演中

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