過去を消した女たち 第16回 美鈴(36) 働かない男に代わり出会い系で客を探していた

エンタメ・2020/07/06 22:30 / 掲載号 2020年7月9日号

「今から思うと、大変でしたね。毎日が必死でした」

 今回、話を聞いた美鈴(36歳)は、今から6年ほど前、日々の生活費を稼ぐために体を売っていたと振り返る。

 現在、関東地方のとある県でシングルマザーとして暮らす美鈴は、丸顔の可愛らしい女性だ。その当時、都内でパートナーの男性、その間にできた2人の子どもの4人で暮らしていた。

 芸能関係の仕事をしていたというパートナーの男性とは、彼女がスナックで働いている時に出会った。

「私はすごいミーハーで、芸能界のこととか、すごく興味があったんです。初めて彼の横に座った時から、芸能人の誰々と釣りに行ったとか言っていて、単純にすごい人なんだと思い込んでしまったんです。彼が私のことをどう思っていたのかは知らないですけど、すぐにお付き合いが始まりました。ただ、彼には奥さんがいて、私は愛人のような存在でした」

 男性は週に数日、美鈴のマンションに通ってくるようになり、数カ月後、美鈴は妊娠した。どうするか迷ったが、「産んで欲しい」と男性は言ったという。

「ちゃんと面倒を見続けるからという言葉を信じ、産むことにしました。それから数年間は彼の仕事が順調だったので、養育費も払ってくれていました」

 不倫という薄氷の上に成り立っていた2人の関係に暗雲が立ち込めたのは、子どもが2歳の時だった。

「私たちの関係が奥さんにバレて、彼は離婚したんです。都心のマンションとかもすべて奥さんに渡し、ほぼ無一文のような状態で転がり込んで来たんです」

 離婚と時を同じくして、順調だったという男性の仕事も傾きはじめた。離婚に至るまで、どんな経緯があったのか。男性の元妻からしてみれば、不倫などより、彼の収入減こそが離婚の要因だったのかもしれない。

 一方の美鈴にとって、子どもと3人での暮らしは、望んだことだった。しかも一緒に暮らしてすぐに2人目を妊娠したこともあり、当然、籍を入れることも考えた。

「結局、籍は入れませんでした。夫婦として暮らしていくのは厳しいなと思ったんです。家の隅にホコリがあるとか、食事を作るのが遅いとか、些細なことで暴力を振るわれました。一緒に暮らして、彼の嫌な面がたくさん見えてしまったんです。子どもにも厳しくて、しつけだと言って毎日怒鳴っていました。上の子は4歳の時にオムツを外したのですが、たまたまオネショをしてしまったことがあり、ひどく怒られたことがあっんです。それ以来、長男は夜だけでなく、昼間もオムツが外せなくなってしまいました」

 パートナーの男性は、家庭内暴力ばかりでなく、仕事もしなくなっていった。

「私と出会った頃は、トランペットの演奏者として、有名歌手のバックで演奏していたこともあったんです。実際、彼が映っているDVDを見せてもらったこともあったので、かなり稼いだ時代もあったようです。でも、詳しいことは分かりませんが、だんだん仕事が減って、子どもが3歳の頃には無収入になっていました。生活が出来ないから何度も働いてとお願いしたんです。でも、元ミュージシャンというプライドからなのか、アルバイトすらしてくれませんでした。いつまたオファーが来るかもしれないと言い、毎日、公園でトランペットの練習をする以外、何もしていませんでした」

 いつ来るか分からないステージのために練習するより、その日の生活が何より重要だった。おそらく、パートナーの男性も、そのことに気づいていただろう。だが、男のプライドにより、一家の生活はさらに困窮の度合いを深めていった。

「食費を工面するだけでも精一杯、自分のことは二の次でした。化粧品を買うこともできないので、ドラッグストアの試供品で化粧をしたこともありました」

 美鈴は、自分の手で一家を支えることを決意した。それは体を売ることだった。

「子どもが小さかったので、水商売をするのは無理。昼間に出会い系で相手を探しました。そんなことはやりたくなかったけれど、子どもたちを育てるためには仕方ありませんでした」

 売春は美鈴にとって、かなりの苦痛を伴う仕事だった。半年ほどで、精神的にも限界に至ったという。

「怖い目にあったりとかはなかったんですけど、やはり、体を売ることへの抵抗感が消えなかったんです。それでストレスが溜まり、些細なことで私まで子どもを怒るようになったり、それまで以上に家庭の中がギスギスしてしまいました。ある日、ふと思ったんです。彼と一緒にいるからいけないんだ。この人と離れて暮らそうと」

 2人の子どもを連れて、美鈴は実家へと帰った。

「最初から、そうしていればよかったのかもしれませんが、家族4人で暮らすことが子どもにとって大事なことだと信じていたので、頑張っていたんです」

 帰るべき場所があり、美鈴は売春から足を洗うことができた。これからも、もう二度とあんなことはしたくないという。

 新たにはじまった生活の中で、売春していた過去を、彼女は親にも、子どもにも、誰にも話していない。ただ、消すことのできない傷として、心には永遠に残り続けていくのだ。

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