菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第194回 新幹線整備と経済効果

掲載日時 2016年10月25日 14時00分 [政治] / 掲載号 2016年11月3日号

 新幹線整備と聞くと、反射的に反対してくる人が持ち出すヘリクツに「ストロー効果」と呼ばれるものがある。もともと、ストロー効果とは交通インフラの整備により、都市が衰退する、あるいは「発展する」ことを示す概念である。ところが、わが国では「新幹線が開通することで、地方の人口、所得などが都市部に吸い上げられる」と、主にネガティブな印象で使われ、反・新幹線プロパガンダの一翼を担っている。

 確かに、ネガティブなストロー効果というものは存在する。例えば、北陸新幹線開通前、東京に本社を置くA社は金沢にも支店を置いていた。北陸新幹線が開通したことで、東京から金沢まで余裕で日帰りすることが可能になり、結果的に金沢の支店が閉鎖されてしまった、というケースである。
 とはいえ、新幹線の開業効果は別に「ネガティブなストロー効果」に限らない。というよりも、ポジティブな効果の方が確実に大きくなる。

 2015年3月14日に、北陸新幹線が金沢まで延伸した。開業からの半年間で、北陸新幹線利用者は約482万人に達した。前年同期に同区間の在来線特急に乗車した人と比較すると、何と3倍である。
 金沢市の日本三名園の一つ兼六園の入場者数は、'15年3〜8月に167万人と、対前年同期比で4割増となった。量販店や小売店も観光客でにぎわっている。さらに金沢市では、民間資本による再開発ラッシュで沸いている。
 全国新幹線鉄道整備法により、新幹線建設の費用は、国(中央政府)および当該新幹線鉄道の存する都道府県が負担することになっている。政府の公共事業により建設された新幹線が、金沢の観光、小売りサービスを活性化させ、民間の投資を引き出しているわけだ。

 新幹線は「市場」と「市場」を短時間で結び付けることで、各地域の商圏を互いに拡大させる。特に、東京圏という世界最大のメガロポリスを市場に取り込むことができれば、地方経済は一気に活気づく。
 東京駅から金沢駅まで、北陸新幹線で「乗り換えなし」の最短で2時間28分。結果的に、金沢のサービス産業の市場が「世界最大のメガロポリス」である東京圏に届いた。無論、多少はネガティブなストロー効果もあったのだろうが、金沢の経済全体に対し、圧倒的にポジティブな影響を与えたのが北陸新幹線の金沢延伸であった。

 開通前は散々不評だった北海道新幹線も、JR北海道が9月末に発表した数字で、利用者が今年春の開通からの半年間で143万5千人と開通前の在来線の1.8倍水準を維持している。乗車率も、当初は26%程度と予想されていたのだが、実際には39%と4割近くに達した。
 興味深いことに、北海道新幹線開通後も、羽田-函館の航空便の利用者は減っていない。東京-新函館北斗間が新幹線で最短4時間2分であるため、
 「行きは新幹線、帰りは飛行機」
 という東京圏の観光客が少なくないようだ。新幹線が新函館北斗まで届いたことで、東京圏から函館に観光に行く人々が増え、結果的に航空便の需要も拡大したのだ。最近の羽田-函館間の航空サービスの利用者増は、北海道新幹線の整備なしでは創出されなかったものだ。
 函館の観光シンボルである「五稜郭タワー」の4〜9月の来場者数は、前年比で約4割増加。宿泊する客も増えており、函館としては初の外資系ホテルも進出した。

 さらに注目すべき現象は、「東北地方」から函館に向かう観光客が激増している点である。
 仙台から新函館北斗まで「はやぶさ」で最短2時間半。盛岡から新函館北斗まで同じく最短1時間50分。
 考えてみれば当たり前なのだが、北海道新幹線が開業することで、函館は100万人都市の仙台をはじめ東北の各都市に対しても商圏を広げることになったのだ(もちろん、逆も真なりである)。

 日本人の多くは、いまだに「人口が減るから需要も増えない」と勝手な思い込みをしている。日本の人口減少ペースは年間20万人台にすぎない。割合で言うと総人口の0.2%程度だ。それに対し、新幹線開通による「乗客数という需要」の拡大ペースは桁が違う。
 函館の例で言えば、新幹線開通により利用客が半年間で63万人も増えたのだ。函館市の人口は約27万人。年間に換算すると、人口の4倍を超す観光客が「追加的」に函館を訪れることになる。0.2%程度の人口減など、軽く吹き飛ぶ「需要増」である。
 そもそも、新幹線の整備自体が「需要」になる。さらに、新幹線開通により地域と地域を結び付けることで、サービス産業や投資において「追加的需要」が生まれる。これら函館に追加的に生まれた「半年間で63万人分の需要」は、新幹線が整備されなければ生じなかったものになる。

 日本には、数字が示す事実を無視し、日本における新幹線整備を否定しようとする人が少なくない。結局、問題は日本人に染み付いてしまった「負け犬根性」なのだ。需要は「意思」に基づき、創出することが可能だ。ところが、あれこれとつまらない理由を付け(ストロー効果が! など)需要創出を否定し、結果的にデフレが深刻化。さらなる、負け犬根性に染まるという悪循環が続いている。
 新幹線は、そもそも国家の基盤インフラである。新幹線は国家の安全保障、地域の発展等を意識しつつ建設されるべきで、「経済効果」ばかりを強調するのは間違っている。とはいえ、北海道新幹線は新函館北斗までの開業だけであっても、十分に「経済効果」も出ているのだ。
 しかも、新幹線整備は各地域の市場を統合するという「需要面」の効果に加え、移動を短時間化することで生産性向上に貢献する。今後の日本において深刻化する「少子高齢化による生産年齢人口比率の低下」という問題の解決にもつながるのだ。

 北陸新幹線にせよ、北海道新幹線にせよ、「経済効果」に限ってみても、十分な効果を出している。負け犬根性を払拭し、日本中を新幹線ネットワークで結び、「日本の各地域の市場を統合」する。これこそが、インフラ面から見た日本繁栄の道なのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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