林ゆめ 2018年12月6日号

本好きリビドー(74)

掲載日時 2015年10月02日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年10月8日号

◎快楽の1冊
『厭世マニュアル』 阿川せんり KADOKAWA 1400円(本体価格)

 絶妙なユーモアは本作の魅力の一つだ。と言ってもただ読者を笑わせるためのギャグ小説ではない。第六回野性時代フロンティア文学賞受賞作である。ひたすら笑いを追求する表現、例えばコント、コメディー映画などが美の領域にまで達する、という例はあるのだが、小説の場合、読者はおおむねウエットな要素を求めるものだ。また、ある程度強固なテーマも求める。人は本当に幸福になることができるのか、それが本作のテーマだ。
 主人公・くにさきみさとはレンタルビデオ店で働くフリーターである。20代前半の今日まで、人とのコミュニケーションを円滑にできなかった。対人恐怖、と言ってもいいだろう。マスクで常に顔を隠すようになったのは、そのためである。振る舞いは、奥ゆかしさをかなり強く心がけている。目立たずひっそりと、そして人の言動に対し、決して逆らわない。
 極端なまでに丁寧な彼女の一人称語り。これがとにかくおかしい。彼女から見えるほとんどの人が押し付けがましく、パワフルである。路上で唐突に声をかけてきた大学時代の男の先輩は、強引に居酒屋に誘い、将来に向けて一緒にがんばろうぜ、と勝手なマシンガン・トークを繰り広げる。しかも、元カノが引きこもり状態なので、救うための手助けをしてほしい、と言う。この元カノはみさとの高校時代からの知り合いで、さまざまな我がままを押し通してくる。バイト先の客たちも我がままこの上ない。
 奥ゆかしい態度、丁寧すぎる語り口の合間に、苛立ちの叫びが挿入される。もちろん、それはみさとの内面だけの叫びで、人前でさらけ出すことはない。このギャップがまたおかしい。
 しかし実のところ、対人関係における苦悩は人間であれば皆が抱えている。そこをどう解決すれば理想の生き方に近づけるのか。本作の一大テーマだ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 「彼氏なしの20代女性、恋人いらないが41%」「20代男性、交際経験ゼロが40%」「7人に1人が『セフレ』あり」「夫はいらない、欲しいのは子どもだけ」
 こんな衝撃的な見出しを表紙にズラリと並べ、現代20代の恋愛、結婚、セックス事情をルポした書籍が『恋愛しない若者たち コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/1100円+税)だ。
 著者は明石家さんまがMCを務める『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)のコメンテーターとして知られる、マーケティング評論家の牛窪恵さん。異性に対する考え方が、とてつもなく“いびつ”になってしまった現代日本人。その実態を綴っていて面白い。
 マーケティングの専門家らしく、独自に調査した豊富なデータに、目を引かれる。例えば「ラブホ代は男女どちらが払う?」という設問に対して、「ワリカン」という回答が最も多い。中高年男性の立場からすると、思わず「え?」と首を傾げてしまうだろう。払わない男も男だが、ワリカンを認めてしまう女もどうかしている。カネを払うのは男という、オヤジ世代の常識は通用しない。
 「リベンジポルノストーリー デートDV、恋愛にはリスクがいっぱい」の章には、面倒な男女トラブルは避けたいという、今どき20代の心理が透けて見える。
 それでも、最終的には9割の男女が「いずれ結婚はしたい」と考えているという不思議…。少子化も進むわけである。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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