葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(169)

掲載日時 2017年09月10日 17時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年9月14日号

◎快楽の1冊
『軽率の曖昧な軽さ』 中原昌也 河出書房新社 1900円(本体価格)

 中原昌也氏の作品はコワい。といって、氏は別にジャンルとしてのホラーを書いているわけでは決してないのだが、例えば、タイトル一つとっても近作の『知的生き方教室』。この文字面を見て芸人なら末尾に(笑)と添えずにはいられないところを、平気で投げ出す独特に底意地の悪さが冷やりと効くのだ。
 だいぶ昔に“アンチ・ロマン”なんてのが流行って、理屈っぽく「小説の語りの構造それ自体を疑う」とか何とか、難解極まる文字上の“実験”が繰り広げられたものだが、その担い手は鍵括弧付きの「文芸」を結局、受けて側の読者も含め信頼していたと思われる。だが、中原氏の場合、それら一切合切を、小説という枠組みそのものをひょっとすると全身で小馬鹿にしているのではないか。その不穏さ。具体的に本書中の短篇(とはいえ90ページ近いが)「軽率」から一節を引くと――。
 「もし除草剤をやむを得ず使用する場合なら、散布場所や散布方法や散布の際の特注ノズルが必要かどうか、効果の持続期間の長短など、種類によって異なる特性があるので、使用する状況に応じて目的に合った除草剤を選択し、必ず商品に付属されている説明書に従って正しく使うべきで、もし箱に何も入っていなければ、薬品会社に請求して、入手できるまで使用を避けたい」
 脳内限定の大音量で「当たり前だよ!」と激しくツッコミを入れつつ気付くと爆笑。ストーリーの展開を追う無意味さはおろか、つづられている文章が本当に原稿用紙の約束の枚数をこなすためだけに書かれているのかもしれぬ恐怖と、背中合わせのおかしさだ。ルイス・ブニュエル監督の映画を見る際に覚えるどころか痛い気持ちよさと似るが、足裏マッサージの類でなく何かが逆撫でされる感触だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 「クリトリスってどこですか?…」唐突な質問だが、もちろん実話読者はご存知のはず。だが、いい年して知らない男もいる。童貞君…、つまり、女を知らない男。
 童貞君は他にも女に関するさまざまな疑問を抱えている。そうした疑問に、女性向け同人誌『AM(あむ)』編集部の女性スタッフがホンネで答えたのが、『恋愛メディアがひろってくれない童貞の疑問を解決する本』(双葉社/800円+税)。
 気になる女性にLINEを送ったのに、返事がこない。既読にはなっているのに、なぜ?
 「土下座すれは女はセックスしてくれると聞いたが本当か」(んなワケない)、「素人童貞と真性童貞はどっちがヤバイ」(どっちもヤバイに決まってんだろ)。()内の注釈は、実話読者ならおそらくそう回答するだろうと想像して書いてみた。
 では、本書ではどう答えているか…。『AM』編集部の女性陣の回答は、実はちょっと違う。そして、回答を読むと、思わず「なるほど」と納得でき、ついでに「童貞なんて…」と小馬鹿にしていた自分たちが、女性のホンネをあまり知らなかったことに気付かされるのである。
 さらに女は男に本心を語らず、ジーッと男を観察し、値踏みしているということも分かる。例えば、「何で女性は顔と金ばかりで内面を見てくれないんですか?」という質問に、「残念なお知らせですが、見てます」と回答。
 このように男のカン違い、誤解、妄想をズバリとブッタ斬ってくれる1冊だ。後学のために、ぜひ読むべし。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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