RaMu 2018年12月27日号

三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第296回 立派な「移民国家」シンガポール

掲載日時 2018年11月20日 18時00分 [社会] / 掲載号 2018年11月29日号

 以前、本連載でも取り上げたが、移民受け入れに際しては「移民政策のトリレンマ」という法則がある。移民政策のトリレンマとは、「移民受け入れ」「安全な国家」「国民の自由」は、同時に2つまでしか成立させることは不可能という法則になる。3つを同時に実現することは絶対にできない。

●自由な移民国家は、安全な国家を失う。
●安全な移民国家では、国民の自由が制限される。
●安全で自由な国家を維持したいならば、移民を受け入れてはならない。
 移民政策のトリレンマの法則からは、誰も逃れられない。

 もちろん、移民を受け入れたが故に自由と安全を共に失う、という最悪のパターン(現在の欧州先進国がまさにそうだが)はあり得る。もっとも、最悪を免れたとしても、移民受け入れで自由か安全のいずれかは確実に失われる。個人的に「立派な移民国家」(皮肉ではない)と評価しているのが、シンガポールだ。

 シンガポールは移民国家だが、安全と引き換えに国民の自由を制限している。シンガポール国民であっても、ガムは噛めない、ポイ捨ては一度目が約5万円の罰金、二度目が10万円の罰金、5人以上集まって騒ぐと即逮捕、落書きはむち打ち刑、ドラッグを所持していると死刑。

 と、「明るい北朝鮮」と揶揄されるほどに厳罰主義で、国民の自由を統制しているのがシンガポールだ。ちなみに、移民は国民以上に自由を制限される。外国人メイドは定期的な妊娠検査を強いられ、妊娠していると容赦なく国外追放だ。とはいえ、シンガポールが「安全な移民国家」を追求している以上、国民の自由を制限することは必須なのだ。

 移民「先進国」シンガポールでは、移民や人手不足、生産性向上に関して、政治家が日本の政治家とは比較にならないほど正しい見識を持つ。シンガポールのヘン・スイキャット財務大臣は、11月2日、ブルームバーグのインタビューに答え、移民について、
「われわれは生産性とイノベーション(技術革新)がけん引する成長に向け動く必要があり、低コストの外国人労働者らに頼り続けることはできない」
「あまりにも容易に外国人労働者に頼ることができた過去においては、そのことが生産性向上を真剣に捉えるよう企業に促すプレッシャーとインセンティブを低下させていた」
「例えば、自動化や機械化などの生産性を高める方策を見据える関心が今は極めて大きくなりつつある」
 と、語った。あまりにも真っ当な発言であったため、筆者は日本の政治家のレベルを思い出し、情けなくなってしまった。

 まさに、ヘン財務相の発言通りだ。低コストの移民に労働力を頼るのではなく、生産性と技術革新がけん引して成長するモデルこそが「資本主義」なのである。また、安易に移民を労働力として雇える国において、生産性向上に対する企業のインセンティブが低下することは、自明の理なのである。

 現在の日本は、少子高齢化に端を発する生産年齢人口対総人口比率の低下を受け、人手不足の深刻化が継続している。人手不足が続いている、のではなく、人手不足の「深刻化」が続いているのだ。

 すでに安倍政権はなし崩し的に移民(外国人労働者)受け入れを拡大し、わが国は世界第4位の移民受け入れ大国となっている。筆者が2017年5月にOECDのデータを用い、徳間書店から『今や世界5位「移民受け入れ大国」日本の末路』を刊行して以降、同データを使った移民論が増えてきた。同書は’14年のデータを用い、「世界5位」であるとの現実を示したものだが、’15年には韓国を抜き去り、ドイツ、アメリカ、イギリスに次いで第4位に浮上した。

 先日、OECDが’16年の移民受け入れ〔厳密には「外国人移住者数(流入数)」だが〕の最新データを公表した。

 正直、筆者は’16年時点で日本が「世界第3位の移民受け入れ大国」に浮上しているのではないかと恐れていた。とはいえ、実際にはイギリスと約2万6000人差の4位であった(だから大丈夫という話ではないが)。もっとも、’16年といえば、イギリスのブレグジットの年である。イギリスがEUからの離脱を決め、翌’17年からは対英移民が減少している可能性が高い。’17年は、かなりの高確率で、わが国は世界第3位の移民受け入れ大国に浮上しているのではないか。

 シンガポールに話を戻すが、いまだに日本国内には、
「人手不足なのだから移民受け入れはやむを得ない」
 と、幼稚な意見を持つ人が多い。だが、人手不足への対策はすでに筆者は1000回以上、述べている。生産者1人当たりの生産量の拡大、すなわち生産性向上だ。そして、企業が生産性向上のための投資に乗り出すには、人手不足の環境でなければならない。まさに「今」、日本は生産性向上(=実質賃金上昇)の絶好の機会を得たのだ。それを潰そうというのが、安倍政権の移民政策なのである。

 ヘン財務大臣の発言通り、移民受け入れは企業の生産性向上意欲を削ぐ。当然である。安倍政権が推進する入管法改正法案が成立すると、日本の移民国家化が本格的に始まる。そして、すぐさまさまざまな軋轢や問題が起きることになる。

 日本国民は瞬く間に移民にウンザリするだろうが、
「人手不足なのだから、移民受け入れは仕方がない」
 と、間違った認識で現状を受け止めるような事態にならないよう、「人手不足の解消は生産性向上」という共通認識を醸成しておく必要があるのだ。

 改めて、資本主義国である以上、人手不足は生産性向上で解決する必要があり、さらに生産性向上こそが実質賃金の上昇と経済成長をもたらす。日本の政治家は、実に真っ当な見識を持つ、シンガポールのヘン財相を見習うべきだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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