森咲智美 2018年11月22日号

本好きリビドー(80)

掲載日時 2015年11月15日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年11月19日号

◎快楽の1冊
『桃太郎』 芥川龍之介 青空文庫(無料)

 〈ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。〉
 これは、2013年度の新聞広告クリエーティブコンテスト最優秀賞のキャッチコピー。視点を変えることによって物事はまったく違った見方になることをうまく表現した作品だが、芥川龍之介は同じ13年でも大正13年に、物事の不条理さと侵略者のエゴイズムに切り込んだ作品を発表していた。
 日本人なら誰もが知っている桃太郎のお話。犬と猿とキジを従えて、無法者の鬼を征伐に向かう姿はまさしく正義の味方である。しかし、芥川龍之介が描いた桃太郎は、少しばかり素性が異なっている。お爺さんやお婆さんのように、山や川に仕事に出るのが嫌になった桃太郎は、ある日、鬼が島の征伐を思い立つ。老夫婦にとってはしてやったりだ。厄介者がいなくなると、喜んで出陣の支度物を持たせてやる。
 〈鬼が島は絶海の孤島だった。が、世間の思っているように岩山ばかりだった訳ではない。実は椰子の聳えたり、極楽鳥の囀ったりする、美しい天然の楽土だった。こういう楽土に生を享けた鬼は勿論平和を愛していた。(中略)桃太郎はこういう罪のない鬼に建国以来の恐ろしさを与え−〉
 実は鬼が島の鬼たちは、歌や踊りを愛する平和主義者だったのだ。そして、いきなりやってきた桃太郎という略奪者に一方的に蹂躙された。犬は鬼の若者をかみ殺し、猿は鬼の娘を凌辱し、キジは鋭いくちばしで鬼の子供を突き殺した。略奪した宝物と人質に取った鬼の子を連れ、桃太郎は故郷へと凱旋した。しかし、余生を幸せに暮らすことはできなかった。因果応報、その後、過去の報いを受けることになるのである…。
 バッサリと醜い浮世の鬼を退治してくれるばかりが桃太郎ではない。現代社会においても、物事の本質を見極める力が大切だ。
(小倉圭一/書評家)

【昇天の1冊】
 ホラー作家として、またタレントとして、はっちゃけたキャラで人気の岩井志麻子さんの新刊が『「魔性の女」に美女はいない』(小学館/760円+税)だ。
 タイトルからまず想像するのが、交際中の男性が連続不審死した事件で名高い、木嶋佳苗被告だろう。
 二重顎のぽっちゃり体形のこの女が、結婚をエサに3人の男から1億円近い金額を受け取った後、男性がいずれも不可解な死を遂げた、あの事件の主人公である。公判でも「性の奥義をきわめたかった」と堂々と語るなど、かなりの床上手だったらしく、まさに“毒婦”と呼ぶにふさわしい。
 しかし、ブサイクである。なぜ、こんな女に男がハマるのか、理解不能だ。著者の岩井さんは、容姿端麗とはとてもいい難い女が、しぶとさと計算高さを発揮し、脳天気でだらしない男を毒牙にかけていく姿をつづっていく。
 魔性とは、決して美人を指していう言葉ではなく、強く、したたかな女のことであり、セックスは男を虜にする手段にすぎないというわけだ。
 本書が取り上げる魔性の女は、著名人が実名で登場するケースもあれば、仮名だが「ああ、あの女のことか…」と、読めばすぐに察しがつく人物も多い。
 どの女も、強く、恐ろしい。一方、魔性に振り回される男は、気弱で、マヌケで、どこまでも愚かだ。
 読後感は、女って怖っ…男女の色恋は、ホラー小説より奇怪で、恐怖と背中あわせ、そんな気持ちになってくる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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