葉加瀬マイ 2018年11月29日号

森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 いよいよ富国強兵

掲載日時 2015年10月22日 10時00分 [政治] / 掲載号 2015年10月29日号

 9月24日の記者会見で、安倍総理が、「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言した。安保関連法案が成立した後は、経済政策に注力するとして、新たな「アベノミクス三本の矢」を発表したのだ。多くの評論家が、新三本の矢を「何ら具体性がないきれいごと」だと批判しているが、私はそうは思わない。これは、戦後の日本社会を根底からひっくり返す富国強兵策なのだ。

 まず、簡単に新三本の矢をまとめておこう。第一は希望を生み出す強い経済、第二は夢紡ぐ子育て支援、そして第三が安心つながる社会保障だ。これらには、それぞれ具体的な目標が添えられている。第一はGDP600兆円、第二は出生率1.8、第三は介護離職ゼロだ。
 これでも具体的なイメージはわかないかもしれない。しかし安倍総理は、会見で「50年後も人口一億人を維持する」と宣言している。その予備知識を持って、昭和16年1月、太平洋戦争開戦直前に近衛内閣が閣議決定した「人口政策確立要綱」を見ていこう。

 要綱は、「昭和35年総人口一億を目標とす」と書いてある。奇しくも安倍総理の目標とまったく同じだ。近衛内閣は、人口増加策を採る理由として、「東亜における指導力を確保する」ためであり、「高度国防国家における兵力と労力の必要」に応えるためだとしている。つまり、大東亜共栄圏を創り出すためには、それを支える兵力と労働力が必要だと考えたのだ。そして、必要な人口増を達成するために女性の結婚年齢を早めて、「女は5人子供を産め」と国家の圧力をかけた。
 安倍総理は、安保関連法によって、日本がいつでも戦争できる体制を確立し、そして今回の新三本の矢で、戦争を支える強い経済を作ろうとしているのだ。
 そのように整理すると、安倍総理が、女性たちに戦前よりも厳しいことを言っていることが分かる。戦前は、「女はさっさと家庭に入って、子育てに専念せよ」と言っていた。ところが、安倍総理は「出生率1.8回復のため子供を産め」と言うだけでなく、「女性が輝く社会」と言って労働の継続を要求し、さらには「介護離職をゼロにする」と言って介護と労働の両立を促す。つまり、労働・子育て・介護の三重苦を女性たちに与えようとしているのだ。

 9月28日、福山雅治さんの結婚発表を受けて、菅官房長官が、「これを機会にママさんたちが出産で国家に貢献」と会見で発言した。ちょっとした言葉のあやだとして深刻な事態にはいたらなかったが、私は昨年の都議会で塩村都議に「産めないのか?」とヤジを飛ばした都議会議員よりもずっと悪質だと思う。普段から、国民を「兵力と労働力」としか考えていないから、そういうセリフが出てくるとみられるからだ。
 「個人を基礎とする世界観を排して、家と民族とを基礎とする世界観の確立、徹底を図ること」と『人口政策確立要綱』は述べている。言うまでもないが、その年の暮れ、日本は太平洋戦争へと突入し、国富の4分の1と300万の人命を失った。

 いま日本人が真剣に考えるべきは、個人を基礎とする社会を作るのか、国家を基礎とする社会を作るのかということだ。現行の日本国憲法には、「国家」という言葉は、前文以外に一度も登場しない。主役は国民と考えているからだ。

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