葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(104)

掲載日時 2016年05月12日 14時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年5月12・19日合併号

◎快楽の1冊
『蛇の道行』 加藤元 講談社 1600円(本体価格)

 企業のコンプライアンス、イメージ重視の姿勢は、世の中に余裕が生まれて以降、定着したものと言っていいだろう。皆が衣食住に苦慮しているときは、倫理や道徳などは後回しになってしまうのだ。第二次大戦中、そして敗戦のあとしばらくは、日本が混迷から脱却できず、貧しかったことは歴然としている。高度経済成長期は、確かに前向きな流れに拍車が掛かっていた時代だけれど、まだ発展途上でもあった。バブルの頃は豊かさが普通になっていた。しかし、気分が有頂天ゆえ、日本全体から判断力が失われていた。
 バブルが弾けたあと、つまり、豊かさは消滅していないが、それまでの調子に乗っていた頃を皆が反省するようになって以降、日本はようやくシリアスにコンプライアンスを意識するようになった、と思う。
 本書『蛇の道行』は戦中から昭和三十年代あたりまでを描いている。物語の最初は昭和二十四年。十四歳の立平が主人公として登場する。戦争未亡人ばかりのバーで働いている。世は今から考えればもちろん貧しく、闇市も健在なのだった。しかし、ストーリーは単純には進んでいかない。時代が逆行して戦中が描かれもするし、主役が立平ではなくほかの人物になるシーンも盛り込まれる。作中、時代を行ったり来たりし、主役もはっきり定まっていないのだから、混乱している小説、と言っていいかもしれない。しかし、それがいいのだ。まさしく、戦中戦後の混乱をダイレクトに活写しており、雰囲気が伝わってくるわけである。
 立平はクールな青年、と言っていい。混乱を醒めた視線で見つめ、日々を生きている。一方、彼と深いかかわりを持つトモ代は、混乱を生き抜くために知り合いを平気で裏切り続ける。彼、彼女が倫理を考えるゆとりを持っているわけがない。必死に生きる、ということを克明に描いているのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 既婚の男が外に女をつくる不倫。だが、けっこう出費もかさむのではなかろうか?
 そこで、いったいいくら必要なのかという点に経済学者が斬り込んだのが、『不倫経済学』(KKベストセラーズ/830円+税)である。
 まず、日本国内で不倫によって動いているカネは、年間5兆5034億円…って、国家予算レベル! 例えばデートのときの食事代、ホテル代、お互いの誕生日のプレゼント、バレンタインのチョコに使う金額などを合算すると、これだけ膨大な金額が1年間に動いているというのだから、抜群の経済効果といっていい。
 さらに、専業主婦が夫以外の男と付き合う際、自分が享受できるメリットが年間19万円を超えていたら、妻は不倫に走る−−。逆に言えば、食事やプレゼントなどに総計19万円以上使えば、人妻といえどもカラダを許すわけだ。
 ということなら、19万円÷12カ月=1カ月約1万5800円也。これだけの“投資”で、隣家の気になる奥さんをモノにできる可能性があるということ。経済効果5兆円以上というと敷居は高いが、1人当たりが使う金額を考えると、サラリーマンの小遣いの範囲でデキる。
 著者は明石家さんまがMCを務めるバラエティー『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)で、トボけたキャラを披露して人気のエコノミスト・門倉貴史氏。禁断の愛をおカネに換算するなど、ヤッていそうで、誰もヤッていない。金額を提示されると説得力もあり、興味深く読める1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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