菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(168)

掲載日時 2017年09月02日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年9月7日号

◎快楽の1冊
『時代劇 役者昔ばなし』 能村庸一 ちくま文庫 950円(本体価格)

 つい先日のこと。仕事先のTBSラジオで「刑事コロンボ」と口にしたら20代の女性アナウンサーが全く分からぬ様子でいささかショックだった。
 よもやとは思うが、そのうちに「水戸黄門」も「遠山の金さん」も「子連れ狼」も「三匹が斬る!」も皆目通じない世代が出てくるのかもしれない。
 御大・片岡千恵蔵に始まり綺羅星の如き往年のスターたちはもちろん、還暦すぎて「ラストサムライ」で一躍脚光を浴びた大部屋出身の“5万回斬られた男”福本清三に至るまでを列伝形式で綴った本書。
 長らくフジテレビのプロデューサーとして製作の現場に携わった著者の金字塔といえば、やはり中村吉右衛門主演の「鬼平犯科帳」であるのは衆目の一致するところだろう。
 90年代に限らず日本のテレビ時代劇史上に燦然と輝くこの名シリーズに関わった面々については、1章設けて別立てに語られているのもファンには尚更心憎い(余談だが筆者の長年の理想のタイプは、同じ著者が手掛けた「御家人斬九郎」で若村麻由美の演じた深川芸者・蔦吉だった。色っぽかったなァ…)。
 仲代達矢「役者とは楽器である」、千葉真一「肉体は俳優の言葉なり」、中村敦夫「演技というのはサッカーに近い」等々、さまざまな語録が飛び交う映画史研究家の春日太一氏との対談も併録され心楽しい。
 だが、通読した上で筆者の如き芸人にとって何より慰めだったのは、どれほど脇役専門に一見みえる人、あるいは、殆どチョイ役ばかりのような役者にも、必ず、絶対に「代表作」があるのを痛感させられることだ。
 懐メロ愛好本の類ではない、静かな希望に満ちた一冊。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 オトナの男が童心に帰り、かつ食欲という実益をも満たす、夏休みに最適な一冊を紹介したい。本のタイトルは『捕まえて、食べる』(新潮社/1300円+税)。
 海のカニやイカはまだしも野生のスッポンやちょっとグロテスクな虫、さらに野草まで、実際に捕まえ、採取し、料理に使って食べてみようというオトナ向けのアドベンチャー本だ。
 しかも捕まえ方がユニーク。富山湾の名物ホタルイカを防波堤から網で掬う、江戸前天ぷらの高級食材・ギンポ(ドジョウに似た魚らしい)を針金ハンガーを竿として釣るなど、遊び心満点で、「これならオレにだってできそう」という簡単な“狩猟”が満載なのである。
 また、獲物によっては遠くまで赴く必要はあるものの、例えば、スッポンは埼玉県越谷市という都市近郊でゲットでき、野草は多摩川でも採れるなど、意外と人間の住む所に近い“穴場”が少なくない。つまり「自然と親しむ」なんていう大げさな話ではなく、身近な場所で楽しんで、工夫して食べてみたら美味いんだぜという、日常と隣り合わせの冒険がテーマ。
 著者の玉置標本さんは41歳。「バカボンのパパと同い年」と、自己紹介で笑いを誘うフリーライターだ。数々の“捕まえて、食べる”体験を『私的標本』という個人サイトで紹介しており、本書はいわばその集大成でもある。
 中年男がつづった楽しく、心和む一冊が、きっと世の男たちに童心と笑いをもたらしてくれるだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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