和地つかさ 2018年9月27日号

本好きリビドー(188)

掲載日時 2018年01月27日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年2月1日号

本好きリビドー(188)

◎快楽の1冊
『プロレスを見れば世の中がわかる』 プチ鹿島 宝島社新書 780円(本体価格)

 '97年10月。筆者が在籍した早大落語研究会は揺れに揺れ、割れた。同日に日本武道館で開催される、芸人としてはザ・ぼんち、松本人志に次ぐ壮挙となる春風亭小朝の大独演会と、東京ドームで行われる高田延彦VS.ヒクソン・グレイシー世紀の一戦と、どちらを生で見届けるかの二つに、である。筋金入りのプロレスファンとは程遠い当時幹部の筆者でさえ、相当後ろ髪を引かれる思いで、結局、九段下に足を運んだ記憶が懐かしい。
 今でこそ「プ女子」などと呼ばれる熱狂的追っかけも天下公認で完全に回復したかに見える人気ぶり(特に新日本)のプロレスだが、総合ブーム以降厳しい冬の時代が長かったのも事実。著者の圧倒的な強みはその良い時も悪い時も、すべてつき合い続けて来た観戦歴が物語る説得力だ。その結果どうなったか? 世間の側が、政治の方が、プロレスに寄せてきたと説く著者得意の見立て技はこれでもかと本書の随所で小気味よく炸裂。特に「長州力=小沢一郎」論は爆笑度において白眉で、あまりの共通点の多さに首筋が寒くなるほど。朝日の報道姿勢がターザン山本編集長時代の『週刊プロレス』のイデオロギー先行型誌面と軌を一にしている分析など、読み応え十二分。
 去年生誕150年を迎えた正岡子規は近代俳句の父として知られる。その二大門弟が高浜虚子と河東碧梧桐で、有季定型を守り『ホトトギス』を主宰し門下三千人と言われた虚子と、十七音にとらわれず自由律の作風を確立し、のちの山頭火や放哉に道を開いたのが後者とすれば、子規がさながら力道山なら、王道の虚子はジャイアント馬場、五七五無視の碧梧桐は異種格闘技戦に走ったアントニオ猪木を彷彿とさせないか。プロレスを知れば俳句の歴史も分かる。(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 かつて横浜に、顔を歌舞伎役者のように白く塗った老婆の名物娼婦がいた。通称“ハマのメリーさん”といえば、会ったことはなくても噂話や風聞で聞いたことがあるという読者もいるだろう。本書はその娼婦の知り合いの人々に丹念に取材し、彼女の実像を追ったノンフィクションである。
 タイトルは『ヨコハマメリー〜かつて白化粧の老娼婦がいた』(河出書房新社/2200円+税)。メリーさんは戦後から1995年冬に姿を消すまで、横浜の街角で客を引いていた娼婦だった。
 実年齢は誰も知らないが、敗戦後に進駐軍が進出してきた頃から“パンパン”として横浜の外人バーなどを根城に“商売”していたらしい。その後はストリートに舞台を移し、'95年に忽然と行方をくらますまでの半世紀の間、白塗りの顔に貴族のようなドレスを着て街頭に立ち続けた。住居は横浜に建つビルの廊下だったという。
 メリーさんの失踪後、著者の中村高寛氏は彼女に関わった人たちへ取材し、ヨコハマメリーとは何者だったのか、またメリーさんが生きた時代と横浜という街の変遷などを追跡していく。
 戦後日本の暗部をつづったドキュメンタリーにも関わらず、読後感は温かい。メリーさんと彼女を取り巻く人々が、日本人が失った情に満ちているからだろうか。
 著者の中村氏は映画監督。'05年に公開された同名タイトルの映画はDVD化され(レントラックジャパン)、現在でも入手可。書籍と併せて見ると、さらに面白い。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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