本好きリビドー(230)

エンタメ・2018/11/28 15:30 / 掲載号 2018年12月6日号

快楽の1冊
『スクリーンの裾をめくってみれば―誰も知らない日本映画の裏面史』 木全公彦 作品社 2000円(本体価格)

★日本映画のセクシーなこぼれ話
 たとえ頓挫した企画でも、ファンにとって垂涎の内容なら勝手に夢見られる作品 がある。『死霊』の埴谷雄高風にいえば“未出現の映画”とでも呼ぶべきか。

 手近な所じゃ勅使河原宏監督の『利休』(’89)で当初のキャスティングでは豊臣秀吉がビートたけしはともかく、千利休役に何とマーロン・ブランドを想定していたとか。またD・リンチの『デューン/砂の惑星』(’84)は本来、怪作『エル・トポ』(’67)で知られるA・ホドロフスキーが撮るはずで、画家のS・ダリを俳優として起用するほか、惑星ごとのテーマ曲をそれぞれピンク・フロイドやローリング・ストーンズに依頼するプランがあったなどと聞けば映画好きには辛抱たまらぬ絶好の餌食。そういや幻に終わった大島渚監督のヤクザ映画『日本の黒幕』も見てみたかったなァ…と望みは尽きない。

 そんなゴシップ的欲望の快楽をたっぷりと満たしてくれるのが本書。いきなり「黒澤明のエロ映画?」に始まる各章の見出しだけで心躍る気分だが、無論、中身も肉質みっちり詰まった充実の手応えだ。

“ピンク映画界の三國連太郎”(この意味も気になるが)の異名を取ったある男優が、70年代に日活ロマンポルノ裁判で検察側の証人となり、終生、裏切り者の烙印を押された監督の生涯を映画化しようとしていた話はちょっと昭和史の謎めいて興味津々だし、その三國連太郎本人が『親鸞・白い道』(’87)以外にも実は2本撮り上げていながら未公開に終わった過去の検証作業も丹念かつスリリング。

 長谷川和彦が『青春の殺人者』(’76)一作で若くして伝説と化すのではなく、国産洋ピン映画でデビューしていたら…と問う最終章など最も痛切かつ愛に溢れたif。泣ける。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 山根佑太、山中正竹、杉浦正則…この名を聞いて誰か分かる人が、どれだけいるだろう。山根は甲子園で優勝経験があり、卒業後は立教大学に進学し、六大学野球で活躍したスラッガー。山中は法政大学在学中に通算48勝の勝ち星を挙げ、これは今も最多勝利記録だ。

 杉浦はオリンピックに3大会連続で日本代表のエースとして出場した、アマチュア球界を代表する投手だった。

 だが、彼らはいずれもプロに進まなかったのである。なぜだろうか? あえて別の道へ進んだ選手たちの決断と、その後の人生を丹念に追跡したドキュメンタリーが、『プロ野球を選ばなかった怪物たち』(イースト・プレス/1500円+税)である。

 理由はさまざま。最初からプロ野球選手になる気持ちはなく、学校卒業後はオーダーメイドのスーツ販売の職業に就いた山根、指導者の道を選択した山中、社会人野球のコーチ、監督を歴任した杉浦。誰もが選んだ道に誇りを持ち、後悔は微塵もない。

 今年もドラフト会議が開催され、1位指名の選手たちは早くも次代のスター候補として期待されている。だが、大成できるかどうかは本人でさえ分からない。人生には別の道もあり、そのどれもがかけがえのないことを、この本は教えてくれる。

 著者は元永知宏氏。学生時代は六大学野球の選手だったルポライターだ。『期待はずれのドラフト1位』(岩波書店)など、硬派で骨太な書籍も合わせてオススメしたい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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