岸明日香 2018年12月20日号

本好きリビドー(200)

掲載日時 2018年04月21日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年4月26日号

本好きリビドー(200)

◎快楽の1冊
『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』 春日太一 文藝春秋 1750円(本体価格)

 訳知り顔にエディプス・コンプレックスだの借り物の理論を振りかざし、「結局、男は母親のような女、というより女に母親役しか求めない」とかほざくインチキ精神科医の受け売りを垂れ流す類が昔から大嫌いだ。
 映画でいえば'85年の『魔の刻』、テレビなら'87年のNHK大河ドラマの『独眼竜政宗』が、それぞれ筆者にとってはその点あまり連発したくない単語ながらいまだトラウマになってなるべく思い出したくない作品で、前者のテーマはずばり母子相姦(相手の息子役は坂上忍!)、後者でいうと実のわが子、伊達政宗(渡辺謙)を弟可愛さのあまり毒殺しようと企むお東の方…思えばどちらも凄絶な迫力で演じていたのが岩下志麻だった。
 少年期に目撃するには精神の予防接種効果抜群。おかげで女に余計な幻想を持たず、むしろその内に隠された得体の知れない理不尽さ、不気味さに脅え、怒らせた際の手に負えぬ厄介さなどへおさおさ警戒を怠らぬようになれたのにはただ感謝のみ。
 お若い衆には代表作として「極妻」シリーズの“姐御”イメージの印象が強かろうがとんでもない。伝説の巨匠・小津安二郎監督の遺作『秋刀魚の味』で文字通り最後のヒロインを務め、篠田正浩と組んだ『心中天網島』『卑弥呼』『鑓の権三』の諸作品にみられる前衛性と様式美に見事拮抗するしなやかな剛直。
 そして邦画史に残る野村芳太郎ミステリーの系譜、山本周五郎原作の『五瓣の椿』(大傑作)や松本清張原作の『鬼畜』『疑惑』(桃井かおりとの対決は完璧なハードボイルド)…役者の聞書をさせたら当代一、竹中労以来の名キャッチャーぶりが際立つ著者ならではの本書で、女優岩下志麻の全作品を見直したくなること請け合い。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 杉坂圭介氏は大阪・飛田新地の元遊郭経営者であり、飛田で働こうとする女性を斡旋するスカウトであり、飛田の歴史や内情をつづったノンフィクション作家でもある。これまでも『飛田で生きる』(徳間書店/1500円+税)など2冊を執筆してきた。
 その杉坂氏の最新刊が、『飛田をめざす者』(前同)。昨年発売されているが、これまでのシリーズの中で最も面白いと評判だ。知られざる遊郭・飛田の“今”がこと細かに著されているのである。
 遊郭の共同経営者として再びスカウトから現場へと復帰した杉田氏は、客足が遠のきつつある飛田にもう一度男たちを引き寄せるため、中国人の“爆買い”に目をつけた。つまり、今度の相手は日本人ではなく中国人観光客。まずはそのアイデアと、衰え知らずの行動力に感服するしかない。関空という国際線の空港を備えた大阪だけに、飛田まで観光客を“誘致”するのは不可能ではないワケだ。
 だが、外国人が相手となると、商売の中身が“性”だけにひと筋縄ではいかない。言葉が通じない、性癖が違う等が障害となり、飛田で働く女性たちから不安や不満が噴出してくる…と、ひと口で言えばそういった内容の本。
 2020年の東京五輪開催を控え、性風俗業界では外国人観光客を取り込む方策が思案されているという。その意味で、まさに現在の性風俗が抱える問題点に焦点をあてた1冊といっていい。
 さて、では風俗爆買いの結末はどうなったか? その顛末は、ぜひ読んでご確認を。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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