菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第273回 米朝首脳会談は開催されない

掲載日時 2018年06月01日 11時00分 [社会] / 掲載号 2018年6月14日号

 筆者は政局や外交の専門家ではないため躊躇してしまうが、あえて断言しておこう。6月12日に開催予定の米朝首脳会談は中止もしくは延期となり、開催はされないだろう。
 実際、北朝鮮は米韓合同軍事演習に反発する形で、米朝首脳会談中止を示唆。それに対し、アメリカのトランプ大統領が5月23日に首脳会談の延期をほのめかしたのだが、筆者が会談は中止になると予想しているのは、米朝の現在の衝突ゆえんではない。むしろ話は逆で、米朝首脳会談が中止にならざるを得ないからこそ、米朝首脳が相手を批判し、「中止にするための舞台」を整えているとみるべきだろう。なぜか。

 当たり前だが、トランプ大統領と金正恩が「会う」時点では、両国間ですでに各種の具体的事項について「合意」がなされていなければならない。トランプ大統領と金正恩が会談し、その場で相談して合意に持ち込む、などという首脳会談はあり得ないのだ。
 北朝鮮の核ミサイル問題は、極東情勢に限られた問題ではない。北朝鮮の核ミサイル技術が完成してしまうと、イランが買うことになる。そうなると、イランと敵対しているサウジアラビアも核武装する。
 核ドミノ勃発につながる可能性が高いのだ。故に、アメリカは北朝鮮の核ミサイル技術について「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を求めており、この点について譲ることはない。実際、5月22日にペンス副大統領が会見し、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」をアメリカ側が求めていることを改めて強調した。

 それに対し北朝鮮側は「半島非核化」の段階的な推進と、体制保障を求めている。「北朝鮮の非核化」ではなく、「半島非核化」である点がポイントだ。北朝鮮は、核武装が容易に可能な「在韓米軍」の半島撤退をも要求しているのだ。さらには体制保障。体制保障とは、金正恩国王を中心とする「金王朝」の北半島支配を認めろという話だが、トランプ大統領は飲む可能性がある。とはいえ、トランプ大統領の後継者はどうなのだろうか。
 先日、アメリカはオバマ政権が妥協に妥協を重ねて成立させたイラン核合意からの脱退を発表した。すなわち、北朝鮮からしてみれば、
 「トランプ大統領が体制保障をしてくれたとしても、後継のアメリカ大統領が保障を継続するとは限らない」
 という印象を植え付けられてしまったのだ。

 「アメリカ側は北朝鮮の【完全かつ検証可能で不可逆的な非核化】を求め、北朝鮮は在韓米軍を含む朝鮮半島の段階的非核化を主張」
 「北朝鮮は【未来永劫】のアメリカによる体制保障を求めているが、次期大統領がいかなる決断をするのかは、現時点で不明」
 という2つの大きな溝あるいは対立点が存在し、この解消は容易ではないのだ。正直、不可能ごとにしか思えない。ちなみに、北朝鮮が望む恒久的な体制保障を実現するためには、米朝軍事同盟以外にはあり得ない。とはいえ、アメリカが米朝軍事同盟を飲むはずがなく、さらに北朝鮮領土に「在朝米軍」が駐留するとなると、中国が黙っていない。中国(厳密には人民解放軍)の対アメリカ基本戦略は、A2AD(接近阻止・領域拒否)である。すなわち、東アジアにおいて中国が展開する軍事行動に対するアメリカの介入を防ぎ、同時に第2列島線の内側の海域において、アメリカ軍が自由に作戦を展開することを阻害するというものだ。

 実は、米朝首脳会談の中止は、北朝鮮にとってデメリットばかりではないのだ。北朝鮮側としてみれば、米朝首脳会談を中止し、その際に「アメリカを悪者にする」国際世論を少しでも形成できれば、今よりはマシな状況になる。間違いなく、中国とロシアはアメリカを悪者化する北朝鮮を後押しするだろう。しかも、トランプ大統領は金正恩ほどではないが、西側メディアに受けが悪い人物だ。会談中止の責任をトランプ大統領に押し付けようと図る西側メディアは、決して少なくないだろう。
 現在の強固な経済制裁に風穴を開け、中国やロシアなど「反米陣営」から支援を受け、とにもかくにも時間を稼ぐ。そして「核搭載型ICBM」を完成させ、太平洋に実射し、核実験を行う。金正恩が「生き延びる」ためのシナリオは、限られている。

 太平洋上で核実験に成功した場合、さすがのアメリカも、これまでのように強気の交渉はできなくなる。そして、核保有国北朝鮮が誕生すると、同国の核技術がイランに流れるのは確実だ。対岸のサウジアラビアはもちろん、ヨーロッパまでもがイランの核の射程圏に入る。すると、少なくともサウジアラビアは核武装をすることになり、ドミノ倒し式に核拡散という悪夢が、世界を覆いつくすことになる。
 そうなると、これはアメリカや中国が最も嫌がる事態だろうが、わが国でも「核武装」という議論が起きざるを得ない。少なくとも、筆者は日本国の安全保障を確立するために、政治家に核保有の議論を始めるよう働きかけるつもりだ。

 韓国は韓国で、独自に核武装を求める(保守派の)声も出るだろう。もっとも、文在寅政権はむしろ北朝鮮の核の傘に入る形で「連邦国家樹立」を目指すと予想する。
 「核保有国となり、日本を見下せる!」
 といった世論が形成されれば(容易に形成できるだろう)、韓国国民はむしろ連邦国家化に賛同する。すると、わが国の目と鼻の先に、核武装した「統一朝鮮」が誕生することになる。まさに「悪夢」だ。

 というわけで、核ドミノを防ぐためにも、アメリカとしては首脳会談中止後、早期の対北軍事行動を決断せざるを得ない。もっとも、朝鮮半島近海でアメリカに武力を行使されることは、中国のA2ADと真っ向から衝突する。いよいよとなると、むしろ中国が金正恩を排除し、「現状維持」のために動く可能性もある。
 われわれ日本国民は、これまでの常識が全く通じない東アジアに生きているという現実を認識する必要がある。大変残念な話ではあるが、東アジアはすでに「平時」ではないのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

関連タグ:三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 北朝鮮

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