葉加瀬マイ 2018年11月29日号

水分不足により突然死を招く気温上昇の今が怖い肺塞栓症

掲載日時 2018年07月07日 08時00分 [健康] / 掲載号 2018年7月12日号

 肺塞栓症は、「エコノミークラス症候群」の別名と言われれば、分かりやすいかもしれない。下肢の腫れ、痛み、皮膚の色の変化といった症状だけでなく、処置が遅れれば最悪の事態を招く怖い病だ。

 「梗塞」というと、血液の流れに乗って運ばれる異物(血栓)が血管を塞ぐ事を指すが、一般的には脳梗塞、心筋梗塞という動脈が詰まる病気として知られる。今回紹介する肺の動脈が急に詰まってしまう肺塞栓症という病名は、まだ馴染みが薄く、イメージが湧きにくいかもしれない。
 「飛行機などの狭い座席に長時間座ったままでいると、足や下腹部の静脈内に血栓ができる。それが血液の流れに乗って、右心房、右心室を経由して肺動脈まで運ばれ、肺塞栓症の原因になります。そして最悪の場合、突然死を引き起こします。早期発見や診断を受けられたとしても、死亡率は2〜8%。そこで誤って肺塞栓症と診断が受けられない場合、死亡率はさらに高くなってしまい、30%になるとも言われています」(健康ライター)

 さらに昭和大学横浜市北部病院循環器センターの担当教授は、こう説明する。
 「肺塞栓症は、急性心筋梗塞と比較しても死亡率が高く、この病気が日本より多い米国やヨーロッパでさえ、いまだ診断がつかずに死亡する人が多いと報告されているのです。症状で一番多いのは息苦しさ。その典型的なものでは、突然、呼吸が苦しくなり、普段であれば何のことはない階段やのぼり坂で息切れしてしまい、途中で休まなければ動けなくなってしまいます」

 肺動脈が詰まっているため、動脈血中の酸素濃度が低下し、心臓は酸素不足を補うために頻繁に血液を送り出す。そのため、安静にしていても脈拍が増え、1分間に100回以上になることも珍しくないという。
 「肺はたくさんの酸素を取り込もうとし、心臓は酸素をなんとかして体に行きわたらせようと懸命に頑張る。そして胸痛を起こします。あとは、失神やショックです。これは心臓から流れる血液量が減って血圧が低下することや、神経反射の影響が考えられます。そして、病状が重い場合は突然死することもある怖い病気です」(同)

 こうした状況に陥る原因は、主に3つある。「静脈の血管が傷ついた」「静脈の血流が悪くなった」「先天的に、あるいは後天的に、もともと血液が固まりやすい体質」だ。
 このうち、これから迎える夏場には、2つ目の「静脈の血流が悪くなった」に注意したい。

 夏は熱を放出するため血管が広がり、血圧が下がって血流が悪くなる。加えて、水分の補給が十分でないことから脱水症状を起こすと血栓ができやすくなり、肺塞栓症のリスクが一気に増すのだ。
 「一般的な健常者でも、これから夏にかけて水分補給が叫ばれますが、肺塞栓症になりやすい人は、特に、水分補給が大切になってきまます。脱水症状を起こせば、重症例では、やはり突然の失神や心配停止を起こしてしまう。しかし、軽症、中等症では呼吸困難や全身倦怠感、不安感、動悸、冷や汗などといった程度で済み、特有な症状はありません。また、熱中症と間違えやすいので気をつける必要があります」(同)

 こんな例がある。昨年夏、ある50代の男性は、以前から喘息の治療でクリニックに通っていた。猛暑だったある日、「熱中症かもしれない…」と担当医に訴え、このクリニックは様々な検査に加え、心不全のマーカーとなる物質の値を測定したという。
 すると、やや高めだった数値において肺塞栓症かどうかの判断で迷いが出たため、応急処置もできる東京医療センターに連絡を取り、男性はそちらに向かうことになった。
 「男性はそれから20分ほどで到着したのですが、それまでは、体調はひどいものではなく、自分で歩けていた。しかし、病院の待合室で体調が急変し、心肺停止という事態に陥ったのです。幸い病院の中だったので命は助かりましたが、数分遅れていたら、難しかったかもしれません」(医療センター関係者)

 当然、患者の容態の変化について調べたが、そもそも血液が固まりやすい体質、加えて仕事が忙しく、睡眠不足が続いていた。それに水分補給をほとんどしていなかったことも分かり、脱水状態が大いに影響していると担当医は判断したという。
 「夏の肺塞栓症の予防は、熱中症と同じく十分な水分補給をすることです。喉が渇く前に小まめに取る。そして、いつもと違う不調を感じたら、肺塞栓症も疑ってください。特に息苦しさをはじめとする呼吸器系の症状があれば、呼吸器内科をすぐ受診すべきです」(専門医)

 本来、肺は体の各部分から流れてきた小さな血栓をとらえ、頭や心臓などの動脈に流れ込まないようにする働きがあり、血栓を溶かす作用もある。そのため新たな血栓ができなければ、時間はかかるが肺血管内の血栓の大部分は自然に溶けていくと言われる。しかし肺塞栓症を起こした人は、出血性の合併症などがない限り、抗凝固療法を行い、薬剤はヘパリンとワーファリンの2つを使用することになる。
 ヘパリンは静脈注射(あるいは皮下注射)、ワーファリンは経口薬で、双方、血液をサラサラにする作用を十分に発揮する薬として使われている。効果は高く、定期的に採血し、検査値を指標に使用量を増減させて血栓を防ぐ。
 「いずれにしても、血栓ができやすいということは、脳梗塞などのリスクが高まることも意味する。呂律が回らない、言葉が出なくなる、または顔に歪みが出る、片方の手足に力が入らない、しびれがあるなどの症状があれば、救急車を呼ぶ必要があります。肺塞栓症の場合、肺組織が破壊されるのは患者の10〜15%程度と考えられています。それは肺動脈とともに、大動脈から枝分かれした気管支動脈からも血液が供給されているためです。この辺りに脳梗塞や心筋梗塞との違いがあるのですが、命を奪われる重大な病であることには間違いありません」(前出・健康ライター)

 この病は、自分が引き起こしやすい体質であることを理解しておけば、予防策を立て発症を抑えることができるのだ。


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