菜乃花 2018年10月04日号

天下の猛妻 -秘録・総理夫人伝- 小泉純一郎・佳代子元夫人(下)

掲載日時 2018年07月16日 08時00分 [政治] / 掲載号 2018年7月19日号

 小泉純一郎代議士とたった4年で離婚をよぎなくされた佳代子は、「女系家族」の嫁としての苦労を味わった。とくに、純一郎の秘書も務める3女、信子女史はその父親の代から秘書を務め、選挙のノウハウを熟知、小泉に政治家生活のイロハを手取り足取り教えたほどの“政治通”であり、小泉の選挙はすべて女史の指示によるものだった。ために、選挙の手伝いを買って出た佳代子は時に反発を買い、疎まれることも多かったということのようである。

 小泉は逓信大臣をやった祖父、防衛庁長官を経た父に続く、「政治家三代目」たるべくを半ば義務づけられていただけに、姉としての信子女史の子供時代の純一郎に対する“教育”もなかなか厳しかったようだ。これにも、こんな関係者の証言によるエピソードがある。
 「小泉が小学生の頃、友達とキャッチボールをやっていた。信子女史が、それを傍らで見ていた。ところが、友達が緩いボールを投げるのを見て、『もっと速いボールを投げてやって』と言った。速いボールが来ると、怖がった小泉はボールをそらす。女史は、そんな小泉にこう言ったそうです。『ダメじゃないの。それくらいのは、きちんと取れないようではッ』と。そんなひ弱さでは政治家にはなれませんよという、女史の叱咤激励の“英才教育”ということでもあったようだ」
 「小泉が後年、首相となり、内閣支持率が下がったりしてメゲそうになっていると、『自分の信念を貫けばそれでいいの』と盛んにハッパをかけていたと言われている。また、小泉が公邸住まいとなってからも起居をともにしながら、朝食から晩酌の肴まですべて信子女史がつくっていた。訪米してブッシュ大統領(当時)に初めて会ったとき、青いシャツにベージュのコットンパンツ姿でキャッチボールをやって話題になったが、これらもすべて女史の演出だったと言われている。小泉への“政治指南者”にして、“母親がわり”が浮かび上がってくる」

 そうした空気の中で、お腹の中には妊娠6カ月の三男を抱えた佳代子の追われるごとくの離婚、小泉家との断絶ということだった。以後、長男・孝太郎、次男・進次郎と会うことも禁じられた。母親の苦衷がしのばれる。
 しかし、“転機”は30年の歳月を経て巡ってきた。お腹の中にいた三男・佳長も成人し、社会人となっての結婚式の場に、突然、小泉と孝太郎、進次郎の3人が出席したことだった。佳代子と佳長にとっては、その間の小泉の母親の死、葬儀に駆けつけても堂々の焼香は許されず、献花だけをしてその場を去ったりしているのである。こうした“転機”は、次のようなものだったという関係者の話がある。
 「結婚式への出席は、進次郎の発案だったようだ。挨拶で、孝太郎が言ったそうです。『これからは、佳長君と仲良くやっていきたい』と。30年の歳月を経ての、ようやくの“和解”ということでした」

 3兄弟の和解の中、離婚後の佳代子はたくましかった。“お嬢さん”を捨て、意を決して不動産業の世界に飛び込み、苦労はあったろうが成功をみた。
 一方の小泉はと言えば、厚生大臣などを経て、平成13年(2001年)4月、ついに首相の座にのぼりつめた。国民に分かりやすい短いキャッチフレーズの言葉で人気を集め、佐藤栄作、吉田茂、安倍晋三に次ぐ戦後4番目の5年5カ月の長期政権を果たした。立ち居振る舞い、戦後初の「ファーストレディー」なしの“独身首相”として、異色の総理をまっとうした。内閣発足時にはこの小泉を「変人」とヤユした田中真紀子を外務大臣に起用、世間の耳目を集めたが、やがてこの真紀子外相にブレーキがきかなくなったとき、「更迭」への決断を迫ったのが、先の信子女史とも言われている。
 その小泉は首相退陣後はしばらく表に出なかったが、ここ2、3年「反原発」へのノロシを上げ、“人気者”の息子・小泉進次郎との「親子二代首相」へ思いを致しているようでもある。

 離婚後35年を経たいま、小泉、佳代子両人の心境はどんなものなのか。佳代子を取材したことのある女性誌記者は言った。
 「小泉が総理になって1年後くらいに佳代子元夫人に会ったら、言葉少なにこう言っていました。『(離婚は)お互いさまです。運命だったと受け止めています。でも、これだけは確かです。決して憎しみ合って別れたのではありません』」

 一方の小泉は、時に触れて「恋人話」「再婚話」が報じられているが、やはり総理になった直後、メディアのインタビューでこう語ったものだった。
 「(選挙の)落選と離婚は、1回だけでいいんじゃないかナ。離婚しない方法は何かと言えば、結婚しないことだ。離婚のつらさは、経験した者しか分からない。だから、僕は一人でいいんだ」

 政治行動には怖い者なし、キレ味のあった小泉ではあったが、男と女の関係の難しさにはホトホト参ったようであった。
=敬称略=
(次号は、福田康夫・貴代子夫人)

小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材48年余のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『決定版 田中角栄名語録』(セブン&アイ出版)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。

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