菜乃花 2018年10月04日号

話題の1冊 著者インタビュー 野澤亘伸 『師弟 棋士たち魂の伝承』 光文社 1,400円(本体価格)

掲載日時 2018年08月05日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年8月9日号

 ――棋士になるにはまず、プロと師弟にならなければならないそうですね。実際に、どのような関係を結ぶのでしょうか?

 野澤 棋士が「師匠」って言葉を口にするたびに、なんかうらやましい気がしました。人生で「師匠」を持つことなんて、なかなかありませんよね。私自身、師弟の世界にとても興味がありました。
 棋士の養成期間『奨励会』に入るには、プロ棋士と師弟関係を結ぶ必要があります。昔は地方出身の子は、内弟子といって師匠の家に住み込みで将棋の修行をしました。でも、師匠から教えてもらうことはほとんどなくて、“技は自分で盗むもの”という職人気質の世界だったようです。今は自宅から奨励会に通う子がほとんどです。本書では師弟の絆の深い棋士たちを取り上げました。

 ――棋士たちは普段、どのように将棋に向き合っているのでしょうか?

 野澤 将棋は運の要素が非常に小さく、自分の力で勝ち取るゲームです。故に負けると、とても悔しい。プロ棋士は、「勝たなければ自分は何者でもない」という常に崖っぷちの中で生きている。
 修行時代には朝3時に起きて将棋の勉強を1日12時間以上した棋士もいます。眠気が襲ったときは、頭から水をかぶって喝を入れたそうです。地方から上京して、修行のために15歳からアパートで1人暮らしをした棋士もいます。ひたすら将棋の勉強に打ち込み、負けた日は悔しくて将棋盤を抱きながら泣いたと言います。プロ棋士になるには、才能だけでなく、これだけの努力が必要なんです。

 ――藤井聡太七段が快進撃を続けています。実際に取材してみて、どのような印象を受けましたか?

 野澤 今回本書に登場してくる若手棋士たちは、いずれも幼少時から並外れた将棋の才能を見せている人ばかり。彼らを取材して感じたのは、どんな天才も“壁に当たる”ということ。怖いもの知らずで駆け上がっていくときは、実力以上の結果が出ることもありますが、壁に当たって迷い、恐怖心が生まれると、見えている勝ち筋に踏み込めなくなる。自分を信じきることができなくなる壁、それを乗り越えて、初めて真のトップ棋士になれると思います。
 ただ、藤井七段の場合、まだ壁に当たったといえるだけのスランプがありません。とても高い頂を目指して、そこに至るには、自分が道草をしている時間がないことを知っている。羽生永世七冠が「まだ将棋の本質を分かっていない」と語ったその先を、藤井聡太は見ているのだと思います。
(聞き手/程原ケン)

野澤亘伸(のざわ・ひろのぶ)
1968年栃木県生まれ。上智大学法学部法律学科卒業。高校時代は将棋部部長を務め、団体戦で県大会準優勝。1993年より『FLASH』の専属カメラマンになる。

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