葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(158)

掲載日時 2017年06月17日 14時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年6月22日号

◎快楽の1冊
『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』 伊藤祐靖 文春新書 780円(本体価格)

 ルバング島で戦い続けて「発見」された旧日本兵・小野田寛郎さんが亡くなった時に、一部(いやほとんど?)の追悼報道を見ていて覚えた強烈な違和感があった。
 それは氏の生涯を捉えて“この人も悲惨な戦争のある意味で犠牲者”的な、どこかしら気の毒な被害者じみた扱いをしていた点だ。個人的な見解をお許し願えれば全くもってとんでもない話である。
 戦争が悲惨なことに異を唱えるつもりは毛頭ない。しかし、誇りと信念と使命感を支えに30年近い月日をたった1人で過ごした人間への、最低限でも敬意と慰労、そして畏怖の念というものはないのか?
 氏は誰に騙されたのでもなければ無理強いされたわけでもない。自ら志願して軍人になった紛れもない戦士である。彼を襲った運命は確かに数奇なものだったかもしれない。
 だが、それをたかが只今現在の価値観で上からのうのうと、“お可哀想”とは傲慢にもほどがあろう。泉下の氏に対して侮辱以外の何ものでもないと考える。
 小野田氏と同じ陸軍中野学校出身の父(昭和50年まで毎週日曜の射撃訓練を怠らなかったとあり驚愕)のもとで育った著者は、戦後初の海上警備行動が発令された18年前の能登半島沖での不審船追跡の際、護衛艦『みょうこう』に乗り組んでいた。事件後、特別警備隊創設に奔走した彼がなぜ退官ののち、ミンダナオ島に渡ったか。
 戦国武士の精神を説いた「葉隠」が書かれたのは、泰平に慣れた江戸も100年を過ぎてからだった。右も左も保守もリベラルもグダグダ言っている場合じゃない。
 掛け値なしにリアルな現代の「葉隠」として、一刻も早く本書の声に耳を傾けるべきだ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 スポーツグラフィック誌『Number』(文藝春秋刊)等でプロレス取材記者として活躍していた柳澤健氏の最新刊『1984年のUWF』(同/1800円+税)を読んだ。
 UWFといえば前田日明と初代タイガーマスクの佐山聡を両エースに据え、関節技の鬼・藤原喜明、若き日の高田延彦らを擁した革新的なプロレス団体だったことをご記憶の方もいるだろう。
 いや、発足当時は「プロレス」というキャッチフレーズをも嫌い、ギミックなしの本格的格闘技を標榜した団体として、既存のプロレスを否定する存在だった。
 本書は団体旗揚げに参加したメンバーの述懐と、発足の仕掛け人だったアントニオ猪木のマネージャー新間寿氏の暗躍を追いかけた骨太のドキュメントだ。
 ご存知の読者諸兄も多かろうが、UWFは前田との確執から佐山が離脱。看板エースとなった前田は“格闘王”の称号を手にし、一大ブームを巻き起こす。だが、やがてリングス、UWFインター、藤原組、さらにパンクラスへと分裂。その間、前田対ジェラルド・ゴルドーという伝説の一戦が行われるも、実はその裏舞台では…、といった真相も、つぶさにつづられている。
 プロレスの裏側が“今だから語れる”といった具合に白日のもとにさらされ始めた昨今だが、だからといって、当時のレスラーたちが色あせて見えるワケではない。本書を読むと、むしろ現在の総合格闘技への橋渡しを担ったヒーローたちの群像が輝いて見えてくる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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