本好きリビドー(224)

エンタメ・2018/10/22 15:00 / 掲載号 2018年10月25日号

快楽の1冊
『粋な男たち』 玉袋筋太郎 角川新書 880円(本体価格)

★粋な男との出会い、エピソードの数々
 この期に及んで改めて、今さら嫌味で書くわけではないが、昔は“お笑い”なんぞ、わざわざ授業料を払って学校で習うものじゃあなかった。まして芸人を進路に選ぶことに両親が双手を挙げて賛成してくれた上、笑顔で背中を押すなどもってのほか。

 漫才の甲子園、と称するイベントをのぞいて見れば今やプロはだしどころか即戦力で通用しそうな技術を備えた高校生がうようよ。とてもじゃないが偉そうに、彼らを素人と見下す気になどなれない。『M-1』や『キングオブコント』の影響下、なにかしら一斉に競技化され、メソッドも一層確立されて下手をすると妙なアスリート感さえ漂うほどだ。

 だが学校ではどうあがいても教えてくれない、否教えられないものがやはりあって、それは演者としての「匂い」であり「たたずまい」だと思う。「艶」や「色気」と言い換えてもいいだろう。

 芸人(特に東京の、かな?)何を言われたら一番辛いかって、実は「面白くない」だの「つまんない」だのではない。そんな程度、そこらのキャバクラ嬢あたりから散々浴びせられている台詞にすぎないが、「分かってない奴」「野暮な野郎」(そういや“野暮だぜ大野暮、大野暮春彦”この駄洒落もすっかり通じなくなり寂しい)扱いされるほうが、ボディーブローよりはるかにコタえるというもの。

 浅草キッドの御両人は、筆者にとって永らく最高の漫才師であると同時に痺れるロックスターだった。無論その想いは現在も変わらぬが、本書を読めばより“ロック”な部分を、著者が全身で担っているように見えてならない。
 同じく玉袋氏の隠れた名著『絶滅危惧種見聞録』と併せて、強くお薦めの1冊だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 気づけばプロ野球もクライマックスシリーズ間近。その後は日本シリーズと続き、次は個人タイトルが話題となる時期だ。中でも、投手部門で最大の栄誉とされているのが「沢村賞」である。

 ベースボールマガジン社が発売した『沢村賞物語』(定価1030円)は、1947〜2018年までの歴代受賞者の詳細な解説に加え、そもそも沢村栄治とはどんなピッチャーだったのか、さらに今年の受賞者予想から、スポーツライターによる沢村賞選定の提言まで盛りだくさんで、沢村賞の歴史がバッチリ分かる。

 特に「沢村賞10の物語」と題された、受賞者へのインタビューが面白い。最初に登場するのは巨人の西本聖(1981年受賞)。この年、20勝をあげた江川卓が大本命とみられていたが、「品格に欠ける」という理由で栄冠は西本へと渡り、世間とマスコミを巻き込んだ大騒動へと発展した。

 では、当の西本は自らの受賞をどう捉えていたのか、本人が赤裸々な心情を語っている。

 また野茂英雄(近鉄・1990年受賞)は、それまでセリーグの投手だけが対象だった沢村賞を、パリーグ投手として初めて受賞。しかも、ルーキー・イヤーでだ。野茂は沢村賞においても、ある意味“パイオニア”だったのである。そんな野茂が語る沢村賞とは…。

 その他、斎藤雅樹、上原浩治(ともに巨人)、斉藤和巳(ダイエー)、田中将大(楽天)ら、名投手の名がズラリと並ぶ。読み応えありの1冊である。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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