葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(99)

掲載日時 2016年04月02日 20時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年4月7日号

◎快楽の1冊
『革命前夜』 須賀しのぶ 文藝春秋 1850円(本体価格)

 今年1月に発表された、第18回大藪春彦賞受賞作である。刊行は昨年の3月だ。作者のキャリアは決して短くはなく、'94年にコバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞してデビューした。そのあとは基本的にライトノベルを得意分野にして活躍していたのだった。
 そんな彼女が10代、20代の若者たちにアピールする作品ではなく、むしろ大人の匂いがするハードボイルド、冒険小説系が過去に受賞している大藪春彦賞をゲットしたのである。それはすなわち、キャリアを積み重ねて会得した筆の力が確実になったからであろう。
 今までこの書評コーナーで幾度か書いたことがあるが、特定のジャンルしか書けない作家はプロとは言えない。本書の作者はそうしたマニアックな小説家に陥ることなく、脱皮したのだ。
 重厚さのある作品だ。ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツに日本人の青年が滞在している。彼は音大で学ぶピアニストだが、まだ模索中だ。どういう表現が自分に最もふさわしいのか、見つけ出せていない。そんな彼がまさしく革命前夜の国の状況を見つめ、加えて音楽小説としての醍醐味があふれる作品になっているのだ。
 おそらくこの小説の重厚さは、歴史の積み重ね、壁の崩壊に至るまでの流れをしっかり調べ上げ、しかも音楽に対する造詣の深さを披露しているから生まれているのだ。
 この世には本をさほど読まなくても作家になれる、と思い込んでいる人が少なからずいる。特にネットが普通に一般化した現在は、なおさらそうかもしれない。SNSやブログに接していると、本を読まなくても文を読んだり書くわけだから、小説も書ける、と思ってしまうのだ。
 しかし、その姿勢は正しくない。政治の歴史や音楽についても調べ、準備しなければ傑作は書けないのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 「あたしって、いけない女なんです」というモノローグの作品といえば、宇能鴻一郎の官能小説『むちむちぷりん』である。1975年に発表され、2年後には片桐夕子主演のにっかつロマンポルノとして映画化された。その懐かしの傑作が徳間書店より文庫本となって発売されている(定価670円+税)。
 まずタイトルがエロい。なんたって、“むちむち”である。しかも主人公は人妻。夫がありながら、「あたし、つい、よろめいちゃうんです」と、亭主の同僚や上司、絵画教室の教師らと、次々に情事を重ねる。
 「これも主人の出世のため。しょうがないんです。部長さんたらさすが大ものなんです。あァ、ああ、あたし駄目になりそう…」(抜粋)
 こんな調子で、いま読んでも、女の告白手記のような親しみやすさが感じられる。
 また「ぬれぬれ」などの擬音語を駆使した文体は、今でこそ当たり前だが、当時は大きな話題になったそうだ。難解な言葉遣いは極力避け、隣りにいる女性が下ネタを語りかけてくるといった印象だから、一般のお父さんたちも手軽に読めたのだろう。
 本誌読者の中にも、股間を熱くした方はいるはずだ。
 人妻の不倫をテーマにしながら、どこかコミカルで、ドロドロとした印象も、あまりない。それどころか、『むちむちぷりん』の主人公は不倫セックスを趣味の一つとして楽しんでいる。
 その姿は、平成の肉食系浮気妻たちの“先駆者”のようでもある。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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