極右勢力と陰謀論とドイツ国家転覆計画

社会・2022-12-16 18:35
極右勢力と陰謀論とドイツ国家転覆計画
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ドイツ連邦検察庁は7日、極右テロ組織「評議会」の信奉者や支援者25人をドイツ連邦議会の襲撃や国家転覆をくわだてた疑いがあるとして逮捕した。
その中には元議員の現役裁判官や、現役軍人。元空挺部隊隊員もいたという。
主犯格の一人は貴族の末裔であるハインリヒ13世と名乗っており、その目的は「暴力革命による新国家の樹立」であった。

彼らはクリスマス前にクーデターを実行する予定であったらしい。
クーデター計画はドイツの国会議事堂を襲撃、議員を拘束し、ショルツ首相など拘束した議員を処刑するという過激なものであった。

そのあとハインリヒ13世が国家元首となり、元極右の国会議員が国家的粛清の責任者になる予定だったという。

ドイツで極右組織というと「ネオナチ」と思いがちだが、もうひとつ「ライヒスビュルガー(帝国の臣民)」というものがある。
ドイツ帝国の崩壊を信じず、現在の連邦政府の正当性を認めない極右勢力だ。
「ネオナチ」はヒトラーやナチスを賛美しているのに対して「ライヒスビュルガー」は、貴族階級の力を奪ったナチス政権を敵視しており、同じ極右とはいえ思想が違っている。

今回逮捕されたハインリヒ13世の「評議会」も「ライヒスビュルガー」の一部とされており、どちらかというとドイツでは「変わり者集団」と見られていた。

「ライヒスビュルガー」は、組織だったグループではなく共通の信念、例えば
今のドイツは戦勝国に作られた偽物国家であり、移民を入れて純粋なドイツ人を外国人と入れ替えようとしている。
偽物国家だから税金を払う必要はない。
新型コロナワクチンや新型コロナウイルスの否定。
ドイツはディープステート(闇の政府)に支配されているといった「陰謀論」を信じるなどがある。

さて、ドイツの極右勢力というのは、旧東ドイツの地域に多い。
理由は東西ドイツが統一して30年以上たっても、いまだに格差が開いたままで、旧東ドイツ地域は旧西ドイツ地域に比べて、豊かではなく失業者も多い。

さらに旧東ドイツ地域は、ナチス政権や共産党政権を経験し現代に至っているのだが、ナチスも共産党も、決して東ドイツの人々を幸せにしてくれなかったという政治不信が強い地域だ。
現代になっても、旧東ドイツは貧しく、さらにいま大勢の移民が入ってきて、自分たちの生活をおびやかしているように感じている。
旧東ドイツ地域の人々は、被害者意識を持たざるを得ないような環境にあると言っていい。
そして被害者意識が強い人は、陰謀論を信じやすい傾向にある。

ちょうど米国のトランプ支持者の貧しい白人たちが、メキシコなどからの移民を嫌がり、Qアノンのような陰謀論を盲信するのと、とても共通点が多い。

彼らをさらに追い立てたのが新型コロナウイルスだ。
彼らの被害者意識は正義感となって「このドイツを変えなければいけない」となり、国家転覆を実行しようとした。

ドイツや米国だけではない。
いま世界中で極右勢力と陰謀論がセットになって急増中だ。
ドイツだけではない。日本でも陰謀論を信じる参政党が議席を取った。

思想が極端になると、テロやクーデターなど行動も極端になる。
おそらく今後、こういった極右で陰謀論を信じる人が増えるような気がする。
何を信じてもいいが、テロやクーデターはご免こうむりたいものだ。

プロフィール

巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。

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