ウクライナが降伏すれば平和になるというものではない

社会・2022-05-01 19:56
ウクライナが降伏すれば平和になるというものではない
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「ウクライナは一日も早く降伏したほうが、犠牲者が少なくていい」と主張する人が後を絶たない。そういう人の脳裏には、太平洋戦争の日本がイメージされているようだ。

3年9カ月続いた太平洋戦争において、後半になるとすでに勝ち目がなかったのは事実だ。早く降伏をしていれば広島長崎の原爆被害もなかった。

ナチス・ドイツも似たようなものでヒトラーが降伏を拒否したため、6年間続いたドイツの戦争におおいて最期の10カ月でドイツの犠牲者数の約半数が出た。ヒトラーが10カ月前に降伏していれば、300万人以上出た犠牲者が150万人程度で済んだかもしれない。

ただし日本やドイツがこうだったので、ウクライナも早く降伏したほうがいいとはならない。

ウクライナとロシアの停戦交渉が何度か行われてきたが、停戦交渉が成るときというのは、どちらかが、相当優勢になるか、あるいは双方がかなり疲弊するかでないと、停戦は実現しない。

特にウクライナにしてみれば、ブチャの虐殺を見ればわかるように、虐殺はロシアに占領されてから行われている。うかつに降伏などすれば、虐殺や拷問、性的暴行が待っているかもしれない。

さらにウクライナは、ソ連の指導者スターリン時代に食糧を強奪した「ホロドモール」(1932〜33)によって、ウクライナ国民の5人に1人もの人が殺された歴史がある。そういう相手にそうそう「降伏したほうがマシ」などと言えるものではない。ウクライナが降伏することによって「平和が訪れる」などという単純なものではないのだ。

戦争終結とは、戦後のこともしっかりと考えないといけない。仮にロシアが勝ったとして、その後の世界がどう変わってくるのかも考えないといけない。

例えばその後の欧州、特に旧ソ連圏はどうなるのか? 中国は台湾に対してどう出てくるのかも考えないといけない。ことはそう簡単ではないのだ。

プロフィール

巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。

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