ロシア軍ヘルソン撤退は両軍のシステムと兵士の質の差
社会・2022-11-16 20:25ここのところ、ロシア軍の劣勢が伝えられている。
5日、ルハンシク州では、ロシア軍の動員兵の1個大隊500人以上が全滅。
9日、ウクライナ側からの情報によると、ドニプロ市ではロシア軍のドローン約8割が撃墜。
11日、ロシア国防省によると、ドニプロ川西岸地域からの撤退完了。
このようにいまは、ロシア軍がウクライナ軍に逆襲されている状況だ。
なぜこのようになったのか?
現在のウクライナにいるロシア軍の兵力は、当初20万弱、いまは損害でもっと減っているとしても、今回30万人の部分動員をかけて50万弱となる。
対するウクライナは動員可能な予備役兵力が90万人。最初から総動員をかけているので正規兵を合わせると、損害を考えても100万人以上と、単純な兵力だとウクライナが多い。
そこにNATOからの最新兵器などが導入され、また米軍式の合理的な訓練を受けているので、いまの状態だとロシアが戦場で完勝することはほぼ不可能になってきた。
米軍式の訓練とは何か?
ウクライナは91年にロシアから独立。だが14年クリミア危機のとき、ウクライナ軍はなすすべもなくクリミア併合を許してしまった。
その後ソ連時代の戦い方を捨て、米軍から歩兵・砲兵訓練、都市型戦闘やサイバー戦、電子戦、ドローンの運用など様々な戦闘を教わってきた。
兵士の人命は尊重され、祖国防衛のため士気は高い。
一方のロシア軍は、今回の30万動員を除けば、契約兵という「職業軍人(志願兵)」と徴兵で集まっている「徴収兵」という2種類がいる。
徴収兵の徴収期間は1年間。
その戦い方や訓練は、第二次大戦時代から、あまり進化していない。
能力の低い兵士や部隊は、最前線に出され人間の盾にされるという。
これでは士気など上がりようがない。
職業軍人と徴収兵の割合は職業軍人65%、徴収兵35%。これにプラス今回の動員兵だ。
つまり相当数の訓練不足の兵士がいる。
そのうえロシア軍の指揮命令系統がかなり混乱しているらしく、侵攻当初から食料や武器・弾薬等のいわゆる兵站がうまくいっていない。
そのためかロシア兵被害の6割が同士討ちという報道すらある。
また、ロシア軍は伝統的に指揮がトップダウン方式で、そのトップにプーチンがいる。
トップダウン方式とは、要は下の人間は何も考えずにただ命令を淡々とこなすだけだ。
これでは上級将校といえど、能力を発揮できない。
上の誰かが、どこかを攻撃しろと言われれば、現場から見ると無駄と思われるような攻撃でも、やらないと上から最終的には、プーチンから目を付けられることになる。
この両軍のシステムや体質が、ウクライナがヘルソン市を奪回できた要素であろう。
さて、撤退はロシア軍にとって初めてではない。
今年の3月にキーウから撤退しているが、大きな損害も出さずに撤退に成功。
撤退させた兵士を東部に回し、ドンバス地方などの侵攻に成功している。
まだこれで、必ずしもウクライナが有利になったとは言い切れない。ロシア軍はヘルソン撤退後、防衛システムを強化しており、プーチンもゼレンスキーも、双方この戦争に負けるとは思っていない。
この戦争はまだまだ続きそうだ。
プロフィール
巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。
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