日本人はアメリカの陰謀で米を食べなくなったのか?
エンタメ・2022-11-04 18:29「戦後アメリカは、日本人をアメリカナイズするために学校給食にパンと牛乳を与えた」という説がまことしやかに言われている。というか定説になっている。しかし本当だろうか?
これに対して京都大学農学研究科の伊藤淳史准教授がくわしく研究していて、伊藤氏いわくこの説は1978年NHK特集「食卓のかげに星条旗~米と麦の戦後史~」が放送され、翌79年にはこの番組を基にした「日本侵攻 アメリカ小麦戦略」として書籍化が大ヒットしたのが、この説のはじまりらしい。
しかしこの番組と本は、小麦生産者団体の報告書と関係者のインタビューで作られており、日米外交文書や公文書は調べていなかったようだ。
最初に答えから言ってしまおう。
「アメリカの小麦戦略で、日本を食から支配」というのはデタラメで、実はまったく逆だったのだ。戦後、アメリカの余剰農産物を日本に贈与、もしくは売却しようとしたとき、最初アメリカ側の考えでは学童用に、綿と脱脂粉乳を贈与しようとしていた。綿は学童服としてだが、日本側は綿の提供を辞退している。なぜか?
当時の日本は財政難のため学童服を作る工場などの費用が捻出できなかったのだ。そして日本側からアメリカに小麦の提供を求めている。
対して、アメリカ側は小麦ではなく、米はどうかと提案しているのだ。なぜか?
当時、アメリカの余剰米売却では、日本はアメリカ産米最大の輸入国であり、アメリカは将来的にも「アメリカ産米最大の潜在的市場」と位置付けていたからだ。
つまり「小麦戦略で日本人の米食を減らしパン食を増やすことで日本を支配する」という都市伝説とまったく逆で、アメリカは日本にアメリカ産米を売りたかったのだ。
だから学校給食に米を贈与しようとしたのだが、日本側は米を断り小麦を要求している。なぜか?
学校給食で大勢の子ども達にご飯を出すためには、各学校に大きな釜が必要となる。しかし前後の財政難でそのようなものを用意できない。炊いた後の掃除も大変だ。
しかしパンならパン工場でたくさん作り、後はそれを配るだけでいい。食器もほとんど汚れない。つまりパンのほうが合理的であったのだ。
もちろんアメリカは米だけでなく小麦も日本に買ってほしかったので、調理設備を備えた『キッチンカー』を使って小麦を使った料理と栄養指導を全国で行っている。いわゆる「小麦キャンペーン」だ。
これは日本政府も大歓迎であった。なぜなら戦後の食糧難の時代である。米が食べられないときのため「粉食奨励政策」をやっていたからだ。
米が食べられないときは代用食として、うどんやすいとんなどを、輸入米の半額近い輸入小麦を使った料理でしのごうというものである。ちなみに当時のアメリカ産米は、パンに向かないので、学校給食用にはカナダ産小麦に混ぜて使っていた。
このように戦後、「アメリカが学校給食にパンを押し付けた」のではなく、「アメリカが米を提供しようとするのを、日本が断り小麦を要求した」というのが真実なのである。。
そしていま日本人の米食が減り、パン食が増えているのは、おかずが多くなったことと、パンが手軽だからで、アメリカの陰謀などではなかったのだ。
プロフィール
巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。
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