バカ殿?それとも名君?『生類憐みの令』の徳川綱吉
エンタメ・2022-11-14 18:13歴史には「名君と思われていたのに実はバカ殿」とか「バカ殿と思われていたけど調べてみたら実は名君」なんてお殿様が結構いたりする。もしかしたら、『生類憐みの令』で犬公方と言われた、徳川綱吉はその両方の人かもしれない。
5代将軍徳川綱吉は「犬を捨てたら死刑」とか「蚊を殺したら島流し」とかで、徳川歴代将軍最悪のバカ将軍などと言われてきた。はたしてその通りのバカなのか?
綱吉は、幼い頃から儒学に熱中していた。儒学の教えに、仁、義、礼、智、信がある。
「仁」とは、思いやり。慈悲の心。
「義」とは、筋を通す。正しい生き方。
「礼」とは、仁を行動で表し、礼儀作法を大切にする。
「智」とは、学問に励み善悪を判断する力をつける。
「信」とは、約束を守り誠実であること。
この学問が綱吉の生涯を決めたと言っても過言ではない。
綱吉の時代、まだ戦国の気風が残っていて、命の価値は低くかぶき者による辻斬りなどは当たり前、宿屋が重病人を捨てたり、捨て子、子殺しも当たり前の時代であった。
綱吉が将軍になると、治安の強化、街道の整備、儒教教育の普及、宿屋で重病人が出た場合、必ず保護すること、捨て子の禁止、幕府による孤児院の設立などに力を入れた。
綱吉の改革で、辻斬りなど殺人は激減、教育も進み近松門左衛門や井原西鶴の登場など、元禄文化が花開いた。ここらへんは名君といってもいい。
当時来日し「日本誌」を書いたドイツ人、ケンペルは江戸参府を経験し、綱吉にも会っていて
「綱吉は気宇雄大にして傑出した資性の人物で、父祖の徳をよく継承し、国法の厳格な監視者であると同時に、臣下に対しては極めて仁慈深き君である。綱吉の下、国民は神々を敬い、法を守り。礼を尽くして暮らしている」
と、なかなかの褒めよう。
さて、綱吉が作ろうとした日本は、儒教の教えが浸透した慈悲の国であった。そこで出てきたのが『生類憐みの令』。
この令はかなり誤解されていて、大切にしたのは犬だけではなく人間を含めた動物全般。
ただし確かに犬は特別扱いで、犬のトラブルを避けるため、江戸中の野良犬・飼い犬など関係なく10万匹以上を保護。いまの中野駅近くに約25万坪の犬屋敷を作り、年間の費用いまの122憶円以上。これを江戸市民から徴収したというのだから、江戸っ子からバカ殿と言われても仕方がない。
『生類憐みの令』で漁師や魚屋は失業したかというと「生きた魚・小鳥・鶏・貝類を売買することを禁止」という令を出したが、シメた魚は売っても問題なかった。貝類は殺したものは売れないと苦情がありすぐに撤回している。
現在、『生類憐みの令』は綱吉に子ができないので、僧侶の隆光が進めたというのはデマで、「蚊を殺したから流罪」などと言った話もデマであり、摘発者も24年間でわずかに69件、そのうち武士が46件と、庶民に対しては案外ゆるかったようだ。
綱吉がバカ殿と呼ばれるようになったのは、極端な動物愛護と、晩年期に各地で災害があり、当時は君主に徳がないと災害が起こると言われたためだったようで、最近の歴史研究では評価が見直されつつあるようだ。
プロフィール
巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。
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