有刺鉄線 戦争と拘束・排除の暴力装置

社会・2020-11-05 17:40
有刺鉄線 戦争と拘束・排除の暴力装置
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町を歩いていると、たまに有刺鉄線に囲まれた空き地や、塀の上に有刺鉄線を張り巡らしている家などを見かけることがある。この有刺鉄線が、20世紀から現代にかけて大きな影響を与えてきたのをご存じだろうか?

有刺鉄線は、19世紀にアメリカの農夫が作物などを野生動物から守るために考えたものだった。次に家畜を囲い込むために使われるようになった。囲い込むといってもアメリカの農地はべらぼうに広い。数十キロにおよぶ有刺鉄線という壁は、たちまち暴力を発生させる装置となった。

最初は農民とカウボーイの対立である。これまで自由に放牧できた草原や水場に、農地が作られ、有刺鉄線で遮られるようになると、お互いは憎しみ合い、ときに双方がガンマンを雇って殺し合うということもあった。

牧場主も、自分の牧場に野牛やインディアンと呼ばれた先住民を入らせないために、有刺鉄線で囲うようになる。こうして野生動物も先住民も白人が侵略してきた土地から排除されるようになる。

やがて有刺鉄線は機関銃に並ぶ兵器となる。その本格的犠牲者は日露戦争時の日本兵であった。有刺鉄線は簡単に張り巡らせることができて、爆風にもめっぽう強い。何より効果的な兵器にしてはえらく安い。

有刺鉄線(鉄条網)に無知であった日本兵は、ひたすら突撃を繰り返し、鉄条網に絡み取られたところを、次々に機関銃の餌食になっていった。第一次世界大戦のヨーロッパでも有刺鉄線は活躍し、多くの命を奪うことになる。

やがて本来、作物や家畜を守るはずだった有刺鉄線は、人間を拘束するのに使われるようになる。捕虜収容所や強制収容所である。世界中の捕虜収容所や強制収容所で使われるようになった。

東西にドイツが分かれていたころも有刺鉄線が民族を分断した。現在の南北朝鮮の境界線でも使われている。かつて、南アフリカの黒人居住区でも黒人を排除するためにも使われた。

平和な日本でも何気なく使われている有刺鉄線は、このような悲しい歴史を持っていることを知る人は少ない。

プロフィール

おぐらおさむ
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、社会問題全般に関心が高く、歴史、時代劇、宗教、食文化などをテーマに執筆をしている。2004年、富山大学教養学部非常勤講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。空手五段。

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