法治主義と民意の微妙な話
社会・2021-11-18 15:00かつて、足元もおぼつかない88歳の老人が、アクセルとブレーキを踏み間違え車が暴走、母子2名が死亡、9名が重軽傷という事故を起こした老人がいて、元通産官僚・工業技術院の元院長であり、逮捕もされなかったことから「上級国民」と揶揄され「特権階級だから、厳罰に処されないのではないか」と、マスコミや大衆が騒いだことがある。
ちなみに老人が逮捕されなかったのは別に特権階級だからではない。逮捕は逃亡、証拠隠滅の恐れがある場合にするもので、証拠はすでにあり、老人には逃亡の恐れがなかったから逮捕されなかっただけのこと。
大衆の声として「厳罰にしろ!」と、多くの人が言い、中には「死刑にしろ!」「免許を返納させなかった家族も悪い! 家族も同罪に処せ!」という声まであった。
ある意味、「この老人に厳罰を」というのが「民意」であったのかもしれない。もしかしたら、その「民意」なるものは、通ってしまったのかもしれない。判決が禁錮5年であったからだ。
大衆の多くは禁錮5年の刑を「軽すぎる!」と、憤ったが、法曹界では「予想以上に重い刑」と受け止めた。
検察側ですら驚いたという。重くてせいぜい3~4年、執行猶予もあるかと思っていたらしい。そして裁判官が、世間の処罰感情に影響されたのではないかと……
裁判官はなぜ世間の処罰感情に影響されるべきではないのか? 人間は間違うので、法や制度によって統治しようとするのが法治国家だ。民主主義の土台は、自由主義だから法治国家にならざるを得ない。民意はときとして暴走するからだ。
しかしあるアンケートによると、遺族が厳罰を希望する場合、8割の裁判官が、刑を重くすると答えている。法は微妙にいい加減なのだ。
判決も民意を反映する。ただ、人が作った法律である限り、法律も不完全であり、時代に合わせての改正は必要であろう。
プロフィール
おぐらおさむ
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、社会問題全般に関心が高く、歴史、時代劇、宗教、食文化などをテーマに執筆をしている。2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。空手五段。
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