戦前戦中に研究された『日本地政学』とは?

社会・2022-04-08 23:16
戦前戦中に研究された『日本地政学』とは?
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地政学とは地理学を政治経済に応用する学問である。しかし戦後の日本において「地政学」は、研究することすらタブー視されてきた。理由は主に大日本帝国の侵略戦争や帝国主義を正当化した学問とされてきたからである。

いまとなっては、戦前・戦中の1938年から1945年にかけて、京都帝国大学の小牧実繁教授らが、陸軍からの支援を受けて「日本地政学」の名のもとに活動していたことを知る人は少ない。

当時の地政学はドイツのものが主流で、それは「国家とは国土と国民の生命体である。国力は国土面積が大事なので、国土を広げることが国力を上げることだ」という考え方であった。これは西洋列強が植民地化を進めることを正当化し、またヒトラーはその考え方を実践して、ヨーロッパ各地に侵略戦争を仕掛けたのである。

このドイツ地政学に対して小牧らは「これは西洋列強における世界侵略のための学問にすぎない。日本が使うなら日本に合った地政学が必要である」といい『日本地政学』を提唱した。

日本地政学はドイツ地政学の侵略型と違い、各国各民族の文化を尊重し、世界共存を図ろうというものであった。ただし、その中心となるのは天皇であり、天皇の元「東洋平和」や「大東亜共栄圏」といった大日本帝国が提唱するイデオロギーと合致するものであった。

東洋平和、第東洋共栄圏は一見正しく美しい言葉ではあるが、大日本帝国が近隣国にやったことは、西洋列強が行った世界の植民地化や侵略戦争と大差なかった。この国策を後押しする形になったのが『日本地政学』なのだ。

そのため、戦後になると地理学会から批判され、消えてしまった学問と言える。ただ現代の日本は核兵器を持った国に囲まれているため、防衛のための新しい日本の地政学を研究するべきであろう。

プロフィール

おぐらおさむ
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、社会問題全般に関心が高く、歴史、時代劇、宗教、食文化などをテーマに執筆をしている。2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。空手五段。

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