努力すれば報われるという神話の残酷さ

社会・2022-07-02 18:30
努力すれば報われるという神話の残酷さ
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「努力は必ず報われる」「がんばればできるようになる」という言葉ほど残酷なものはない。それは成功したほんの一握りの人のみに通用する「神話」だからだ。

それでもアジア太平洋地域の7か国を対象とした「仕事に対する意識調査 2021年版」の【人生に成功するために重要な要素ランキング】によると、『努力すること』が1位であった。

これはアメリカやイギリスなどでも一緒であったが、ドイツ、フランス、スウエーデンといった国では努力は2位、1位は『個人の才能』となっている。

アメリカや日本というのは、世界的に見ても新自由主義の国であり、社会的弱者に対して「おまえが社会的に弱いのも、貧しいのもおまえの責任だ。だってチャンスはすべての人に与えられているのだから」という考えであり、西欧や北欧は「それは違う、成功するしないは、運や才能、その人の環境、家柄などに左右される。よって国家が運悪く社会的弱者になってしまった人に手を差し伸べる必要がある」と考え、福祉が発達した。

ミシガン州立大学とテキサス大学の合同研究によると、一卵性双生児の双子850組を、違う収入の家庭、異なる環境で生活する子どもに、クラシック楽器の練習の努力比較をしたところ、演奏技術の差は、全く発生しなかった。

つまり努力すら遺伝で決まっているということがわかったのだ。そしていまでは努力の遺伝子がある人とない人がいることがわかっている。

遺伝とはもって生まれたもの。もし成功が努力の結果だとしたら、それは努力の遺伝子を持って生まれるか生まれないかで決まる。

才能も親からの遺伝子の結果だろう。豊かな才能と努力の遺伝子を兼ね備えている人と、そうでない人とでは、どちらが成功しやすいかは考えるまでもない。そしてその遺伝子を持っている親は、すでに成功者であり、裕福で社会的に有利な環境にいる確率が高い。

そう考えると、世の中というものはずいぶんと不公平・不平等にできているとも言える。

「努力は必ず報われる」「がんばればできるようになる」と、いうのは一種の信仰であり神話だ。確かに努力すれば成績が50点の子は60点、あるいは死に物狂いに頑張れば70点くらいは行くかも知れない。しかし、努力しないで90点、95点を取る子がいるのだ。

東大など旧帝国大学や難関大学に合格する人の半数弱は、塾も予備校も行っていなかったというデータがある。その一方、塾や予備校に通い、一日3時間しか眠らないで勉強をしている人が、4浪5浪するということも当たり前にある。

「努力は必ず報われる」という言葉は恵まれた高学歴・高収入のエリートほど、信じているもので、つまりは「成功していない人や貧しい人は、努力が足りないからだ」という残酷な理屈になってしまうのだ。

プロフィール

巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。

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