なぜヒンズー教徒は牛を食べず、イスラム・ユダヤ教徒は豚を食べないのか?

社会・2021-07-29 19:47

食文化というのは不思議なものである。江戸時代以前、日本人は好んで肉食をしなかった。理由の一つとしては宗教的禁忌であるというのが通説だ。
とはいえ、マタギという職業猟師がいたり、昔話にタヌキ汁が出てきたりと、それなりには食べていた。
たまに中国人や韓国人が犬を食べると、蔑視する人もいるが、日本でも昭和の中頃まで、犬は日本人もけっこう食べていて、私も「野良犬を狩って食べた」とか「愛犬がいなくなったと思ったら、夜ご飯がスキヤキだった」なんて話を聞いたことがある。

世界に目を向けると、インドのヒンズー教徒は牛を食べず、中東の砂漠地帯で生まれたイスラム教徒やユダヤ教徒は豚を食べない。

表向きには「牛は神聖だから」「豚は穢れているから」という答えになる。実はそれ以上に切実な理由があるのだ。

ヒンズー教徒は「牛は神聖」と言いつつ、インドの牛はみな痩せていて、とても大切に扱われているようには見えない。実は、インドにおける牛は無料のトラクターなのだ。インドの人たちは「牛は神聖」といいながら、ろくに餌も与えず農作業に使い、糞は燃料にしたり壁材にしたりと利用する。そんな牛を食べるなんてもったいない。

イスラムやユダヤ教徒が豚肉を嫌うのは、砂漠や荒野と関係がある。砂漠や荒野は水が貴重で森林も少ない。
豚は猪を家畜化したもので、猪は森林の動物。清潔好きで水があれば貴重な水を泥だらけにして涼む。そして羊や山羊が草だけを食べるのと違い、食べ物が人間と競合するのだ。
つまり、豚を飼うよりも羊や山羊を飼ったほうがお得なのだ。

かくのごとく食文化の背景には、損得勘定が潜んでいたりする。中国、韓国、かつての日本人が犬を食べるのも、農耕文化において狩猟や牧畜文化に比べ、餌を与えて飼い続けるより、ときには食べちゃったほうがお得という背景があったりするのだ。

プロフィール

おぐらおさむ
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、社会問題全般に関心が高く、歴史、時代劇、宗教、食文化などをテーマに執筆をしている。2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。空手五段。

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